神明クリニック

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コラム(2012年)

12月号インフルエンザ予報(2012-2013)
11月号"祝"ノーベル医学生理学賞
10月号遺伝子検査について
9月号帯状疱疹について
8月号発癌性物質について
7月号6歳未満での脳死移植について
6月号HbA1c(グリコヘモグロビン)について
5月号良性発作性頭位変換性めまいについて
4月号ABC検診について
3月号睡眠時無呼吸症候群について
2月号口周囲の病気について
1月号女性の更年期障害について

インフルエンザ予報(2012-2013)

皆さん、インフルエンザのワクチン接種はもう済みましたか。
厚生労働省感染課の発表によると12月3日現在、インフルエンザは全国的にはまだ散発している程度で、流行レベルには至っておりません。ですが、週毎に増加傾向にあり、昨冬はちょうど今頃から流行入りする地域が増えていったこともありますので、これから十分に用心する必要があります。

さて今冬に流行すると予想されているインフルエンザウイルスは、昨冬と同様、A型H1N1(2009年に流行した新型インフルエンザと同じタイプ)、A型H3N2(いわゆる香港型)、そしてB型の3種類なのですが、昨冬と全く同じとういうわけではありません。

そもそもインフルエンザウイルスは自分自身では増殖することができないため、他の生物(ヒトやブタ、トリなど)に感染し、その感染した細胞の力を借りて、自分と全く同じ遺伝子をコピーすることで増殖するのですが、そのコピーの際に少しの間違いが起こることが度々みられるのです。
すなわち自分の遺伝子とほんの少しだけ違った遺伝子を持つインフルエンザウイルスに変異するのです。ですから昨年と同じA香港型でもほんの少しだけ違っているのです。何度も同じA香港型のインフルエンザに罹る患者さんがいるのは、このような変異がみられるからです。
そして2009年に発生したブタ由来の新型インフルエンザはこの変異が大きかったため、大流行を引き起こし、その後は季節性のインフルエンザとなって小さな変異を繰り返しながら、生き延びていくのです。

さて、今年流行が予想されている3種類のインフルエンザウイルスですが、A香港型とB型は昨冬と若干違っており、新型と呼ばれていたA型H1N1は昨冬と全く同じと予想されています。ですから今年のワクチンはこれら3種類に対応しており、昨年のワクチンとは2種類(A香港型とB型)が入れ替わっています。

ワクチンにはインフルエンザの発症を抑えたり、症状を軽くしたりする効果がありますが、特に小児では効果が不十分な場合もあります。インフルエンザに罹る患者さんをできるだけ少なくするためには、皆さんがひとりひとり普段から咳エチケットなどの感染予防に努めることが何よりも重要だと思います。

いきいき生活通信 2012年 12月号

"祝"ノーベル医学生理学賞

先日、京都大学医学部教授の山中伸弥先生がノーベル医学生理学賞を受賞されました。暗いニュースが多い中で、まるで後光がさすかのような明るいニュースでしたね。
山中先生は2006年に世界で初めてマウスの皮膚細胞から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作製し、翌2007年にはヒトの皮膚細胞からもiPS細胞を樹立しました。
ところで、このiPS細胞とはいかなる細胞で、また私たちにとってどのような意義があるのでしょうか。

私たちの体は皆、例外なくたったひとつの細胞(受精卵)から作られています。つまり受精卵は増殖を繰り返すことで徐々に専門性を獲得し、最終的には肝臓や腸の細胞、あるいは血液の細胞というように約270種類の細胞(体細胞)に分化します。そしてこの体細胞は別の種類の体細胞に変わることはできないと考えられていました(例えば皮膚細胞が血液の細胞に変化するなど)。しかし、1996年に体細胞を使ってクローン羊のドリーが誕生したことから、体細胞も受精卵のように全能性を持った細胞に戻ること(初期化)が可能であると考えられるようになりました。

確かに体細胞の遺伝子と受精卵の遺伝子は全く同じですので、受精卵のように分化・増殖する能力を持っている可能性があり、何らかの要因によりその能力が封印されていると考えることができます。
山中先生は試行錯誤を重ねた末、四つの遺伝子を皮膚細胞に導入することでこの封印を解いたわけです。

封印が解かれた皮膚細胞はあたかも受精卵のように、与えられた条件によって血液細胞や筋肉細胞、あるいは神経細胞に分化したのです。そして山中先生がiPS細胞を樹立して以降、世界中でiPS細胞の研究が活発に行われており、目覚しい成果が次々に報告されています。例えば、マウスを使った実験では、脊髄損傷や心筋梗塞、血友病などの病状を改善することに成功していますし、ヒトにおいても種々の血液細胞やインスリンを産生する膵臓細胞、あるいは角膜細胞などを作り出すことに成功しています。

このようにiPS細胞は大いなる可能性を秘めているといえるでしょう。この度の山中先生のノーベル賞受賞も含め、昨今の医学の進歩には驚嘆すべきものがあり、まるでヒトは何か見えない力によって真理の探究へと導かれているかのようにも思われます。

いきいき生活通信 2012年 11月号

遺伝子検査について

現在、ヒトの遺伝子の数はおよそ2万6千個あると言われています。そしてこれらの遺伝子からどのようなタンパク質が作られて、いかなる働きをしているのかということが世界中で盛んに研究されています。遺伝子に関する全てのことを解明するのは大変困難な作業なのですが、少しずつ前に進んでいることは確かです。その成果の一部はビジネスとして私たちの日常の中にも浸透してきています。

例えば自分が太りやすい体質かどうかを調べることも簡単に検査できるようになっており、いくつもの会社が肥満の遺伝子検査を取り扱っています。もし太りやすい体質と判定されれば、その人にあった食事や運動、あるいはサプリメントなどをアドバイスしてくれます。
確かに、肥満は生活習慣病と密接な関係がありますので、自分の体質を知って効率よくダイエットすることは重要なことだと言えるでしょう。その他にも生活習慣病や癌、アルツハイマー型認知症などになりやすいかどうかを調べたり、記憶力や芸術的な才能など潜在能力に関連した遺伝子を検査することも可能になっています。

そして今後ますます検査できる項目は増えていくでしょうし、その信頼性も、項目に依りますが、高くなっていくと思われます。遺伝子検査はこれまでも病気の診断や治療、あるいは親子鑑定や犯人の識別などに利用され、医療のみならず社会的にも重要な役割を果たしています。
ですから遺伝子検査の重要性について、否定するつもりは毛頭ないのですが、一抹の不安があるのも事実です。

例えば、自分の将来の姿や健康が遺伝子によってかなり正確に予想できるようになったとしたらどうでしょうか。あるいは自分の子供の将来が予想できたり、もっと極端に言えば、子供を授かる前から自分の子供のことがいろいろとわかってしまったらどうでしょうか。遺伝子だけでヒトが判断される世の中になってしまったら・・・。私の杞憂に終われば良いのですが。

10年以上前に友人に言われた一言が忘れられません。私がその友人に“利己的な遺伝子”という有名な遺伝学の本の話をしたところ、彼は言い放ちました。「人間は遺伝子だけでは決まらないんだよ!」と。

いきいき生活通信 2012年 10月号

帯状疱疹について

今年の夏は本当に暑かったですね。皆さん、体調を崩したりしていませんか。この時期は夏の疲れのためか、帯状疱疹を患う人が多くみられます。
帯状疱疹は水痘(水ぼうそう)のウイルスによって引き起こされるのですが、初めて感染した場合は帯状疱疹ではなく、水痘を発症します。水痘は皆さんも経験があるかと思いますが、1週間程度で治ります。
しかし水痘ウイルスはその後も体の中に潜んでいるのです。すなわち、私たちは一度水痘に罹患すると、水痘ウイルスに対して免疫を確立し、その免疫力によってウイルスを体の中の神経節(神経細胞がたくさん集まったところ)に抑え込むのです。

免疫力が保たれている間はウイルスもおとなしくしているのですが、疲れやストレスなどで免疫力が低下するとウイルスは再び増殖を開始し、炎症が起こります。その炎症は神経節からでている神経および末端部の皮膚にも波及しますので、結果的にその神経の支配領域に一致してピリピリとした痛みと赤い発疹や小さな水疱が生じます。神経は体中に分布しているため、発疹や水疱はいろんな部位に出現します。
例えば肋間神経にでると、右あるいは左胸部に帯状にみられ、これが帯状疱疹と呼ばれる所以です。

その他、三叉神経(額や顎に分布)や頚部や腰部の神経も好発部位です。また神経支配は左右いずれかの片側支配ですので、発疹や水疱も必ず片側にでます。両側にでる場合は帯状疱疹ではありません。ただし、時に発疹や水疱が出現しない場合もありますので、この場合は痛みの性状や部位などで経験的に帯状疱疹と診断することがあります。

治療は抗ウイルス薬(ウイルスの増殖を抑える)の内服や点滴が中心で、早期の回復が期待できます。また痛みが強い場合は解熱鎮痛剤や時にステロイドの全身投与を行うことがあります。
大抵は、3~4週間で痛みも発疹も無くなるのですが、治療が遅れたり、不十分だと帯状疱疹後神経痛と言って、その後も痛みだけが残り、数ヶ月から数年以上にわたって痛みに悩まされることがあります。顔面の神経は後遺症が残るとつらいですので、気を付けてください。特に高齢者の方は要注意です。

予防はワクチンもあるのですが、まだ一般的ではなく、やはり普段の体調管理に尽きますので、皆さん、しっかり食べて、適度に体を動かし、ぐっすり眠るようにしましょう。

いきいき生活通信 2012年 9月号

発癌性物質について

「食べ物のこげを食べると癌になりやすい」という噂を誰もが一度は聞いたことがあるでしょう。
私も子供の頃に聞いて、こげは体によくないものだと思い込んでいましたが、なかには少しこげてるほうが美味しい場合(カルビやチャーハンのこげなど)もあって、あまり気にせず食べていましたね。
実際は、私たちが普段摂取する程度のこげでは全く問題ないようです。ですが私たちのまわりにはたくさんの発癌性物質があります。放射線や紫外線、タバコやアルコール、アスベストやベンゼン、抗がん剤や免疫抑制剤など挙げればきりがないほどです。

このような発癌性物質は国際がん研究機関(WHO関連施設)からヒトの疫学調査や動物実験の結果などに基づいて、発癌への確実性によってグループ分けされ、定期的に勧告されています。しかし全ての物質が評価されているわけではなく、発癌性が不明の化学物質もたくさんあります。
皆さんもご存知だと思いますが、この5月に大阪の印刷会社の従業員に胆管癌が多発していることが報告されました。その後、他県でも同様の患者さんが確認され、現在厚生労働省が患者調査を行っている状況です。

これまでの調査によるとインクを拭き取る洗浄剤に含まれている化学物質(1、2ジクロロプロパンおよびジクロロメタン)が原因と考えられています。いずれもこれまで発癌性物質とされてはいましたが、1、2ジクロロプロパンについては健康に対する影響はあまり研究されておらず、ジクロロメタンについては以前、米国で胆管癌の発症との関連を示唆する報告があったのですが、その後の調査で否定された経緯があり、いずれも発癌性について十分に注意されていたとは言えないかもしれません。
おそらく吸入量が少なければ問題ないのでしょうが、今回の再現実験では、両物質ともに高い濃度で検出されています。いずれ因果関係がはっきりすることでしょう。

私たちのまわりは本当にいろいろな物質があります。どれが安全でどれが危険かを絶えず調査・研究することは、私たちが安心して生活するために非常に重要なことです。
この度の胆管癌の多発した事実は産業医科大学のある研究グループが突きとめたのですが、今後このような原因による胆管癌の発生がみられなくなるのであれば、その意義は大変大きなものでしょう。

いきいき生活通信 2012年 8月号

6歳未満での脳死移植について

先月半ばに国内初の6歳未満での小児の脳死移植が行われました。
心臓・肝臓・腎臓がそれぞれのレシピエントに無事移植され、経過も順調のようです。消え行く幼いひとつの命が3人の患者さんを支えてくれることを切に願います。

さて今回の移植で話題になったのは、ドナーが6歳未満だったことです。なぜ6歳未満ということが話題になったかと言いますと、6歳未満の小児に脳死と判定することが難しいためです。

例えば、私が何らかの事故に遭い、外傷性のくも膜下出血を起したとします。脳は心臓や肺の機能を制御しているので、その事故で脳の障害が大きければ心臓や肺の機能は維持できず、したがって私は人工呼吸器を装着され、また血圧維持のため強力な薬を投与されることになります。

そして私の行く末として、

  • ① この状態から回復できる場合
  • ② 長期間この状態が続く場合
  • ③ いかなる処置を施してもいずれ生命を維持できなくなる場合

が考えられます。
脳死状態とは大まかに言えば、この③の状態を意味します。私の行く末がどうも③すなわち脳死の状態らしく、家族が臓器提供の意思表示をすれば、移植を前提として私に脳死判定が行われることになります。
そして私が脳死状態と判定されれば、移植が行われるわけです。

しかし脳死と判定されれば間違いなく③の状態であるかというと、私はほぼ正しいと思っていますが、100%正しいとは言えません。なぜなら脳の機能は科学的に完全に解明されているわけではありませんので、この判定が100%正しいとは誰も言えないのです。
そして小児は大人に比べて、脳の回復力が強いため、脳死判定がより慎重に行われなければなりません。それ故、以前は6歳未満の小児は脳死判定から除外されていました。

しかし2年前に脳死移植に関する法律が改定され、本人の臓器提供の意思が不明な場合でも家族の承認があれば、臓器提供が可能となり、また15歳未満でも脳死判定を厳しくすることで臓器提供が可能となりました。マスコミでも話題になりましたので、皆さんも覚えておられるでしょう。そしてその法律改定によりそれまで年間5~10例ほどだった移植件数が2010年は32件、2011年は44件と順調に増えています。

私は脳死移植が増えていくことに基本的には賛成であり、今回の移植についても、ドナーの両親の強い決断は大変立派だと思っているのですが、同時に脳死の判定については、今後も議論を重ねていく余地があると感じました。

いきいき生活通信 2012年 7月号

HbA1c(グリコヘモグロビン)について

現在、4人に1人は糖尿病であると言われています。そして糖尿病の診断や治療には、血糖とHbA1cが非常に重要なのですが、特にHbA1cはおよそ二ヶ月間の血糖の状態を反映するため、私たちはこのHbA1cを定期的に測定することで、糖尿病患者さんの血糖の状態を評価しています。
例えば糖尿病患者さんが病院を受診したときには普通血糖を測定しますが、空腹時(8時間以上の絶食後)と食後では随分と差がありますし、また摂取した食事の内容や食後経過した時間によってもかなり違ってきます。しかしHbA1cは空腹時と食後であまり差がないため、外来患者さんの血糖状態を評価するのに非常に信頼できる検査なのです。

さて、皆さんにも馴染みのあるこのHbA1c(グリコヘモグロンビン)についてですが、この4月から基準値が変更となりましたので、少しお話してみます。

ヘモグロビンはそもそも赤血球に含まれている蛋白質で、酸素と結合し、全身へ酸素を運搬する役割を担っています。このヘモグロビンのうち約4%は特定の部位でブドウ糖と結合しており、これをHbA1cと呼んでいます。
もし血液中にブドウ糖が余っている(高血糖)状態が続くと、余分なブドウ糖はヘモグロビンと次々に結合するようになり、HbA1cは高くなります。すなわちHbA1cは血糖値に相関しているのです。そして糖と安定に結合したヘモグロビン(HbA1c)は赤血球の寿命(約120日)が尽きるまでみられますので、100日前に糖と結合したHbA1cもあれば20日前に結合したものもあるわけですから、平均すると約2ヶ月間の血糖の状態を反映するわけです。ですから私たちはHbA1cを糖尿病患者さんの血糖コントロールの指標にしているのです。

そしてこのHbA1cの測定にはいくつかの方法があり、検査センターによって多少の誤差がありましたので、日本では糖尿病学会の測定値を基準として補正されていました。しかし国際的には米国の基準値に補正されており、米国の基準値は日本の基準値よりも0.4%高いのです。
そして日本でもこの4月から国際基準を採用することになったため、これまでの値に0.4%プラスして表すことになりました。したがって糖尿病の診断基準は6.1%→6.5%へ、糖尿病患者さんの目標値は6.5%→6.9%に変更となったのです。

ところで皆さんのHbA1c値はどのくらいですか。

いきいき生活通信 2012年 6月号

良性発作性頭位変換性めまいについて

インフルエンザもようやく終息しつつありますが、誠に恥ずかしいことに今冬のインフルエンザでは何度か誤診をしてしまいました。「インフルエンザの可能性はほとんどありません。」と診断した患者さんがインフルエンザだったり、「間違いなくインフルエンザでしょう」と診断した患者さんが別の感染症だったりと、まだまだ未熟ですね。反省しております。

さて今回は日常診療でよくみられる良性発作性頭位変換性めまいについてお話します。
めまいを来す疾患は種々あるのですが、大きく分けて

  • ① 中枢性めまい(非回転性:ふわふわ・ふらふら)
  • ② 末梢性めまい(回転性:ぐるぐる)

とに分かれます。
中枢性めまいは脳血管障害(脳梗塞や脳腫瘍)や脳血流の低下などが原因で起こり、末梢性めまいは内耳の障害で起こります。

また末梢性めまいは耳鳴りや難聴を伴う場合(メニエール病や特発性難聴など)とそうでない場合に分かれ、そしてめまいの中で最も頻度の高い疾患が良性発作性頭位変換性めまいです。すなわち頭位変換性めまいは末梢性のめまいであり、耳鳴りや難聴を伴わないめまいです。
「朝、急に起きたらぐるぐる目がまわった」とか「寝返りうったら目がまわった」とか「頭を動かすとめまいがして吐き気がする」などの症状が特徴です。原因は耳の奥にある三半規管にカルシウムの塊(耳石)が浮遊しているため、頭を特定の方向に動かすと耳石が動き、めまいが誘発されると考えられています。この耳石ができる理由はよく解っていませんが、頭部外傷や感染などによってできる場合や、また女性や高齢者によくみられることから、加齢やホルモンの影響も関係していると言われています。

頭位変換性めまいはたいていの場合、数日すれば発作は治まりますので心配ないのですが、症状が強い場合は薬物療法(抗めまい薬や吐き気止め、鎮静剤など)もある程度は有効です。その他、座ったり横になったりして、耳石をめまいのしない部位に移動させる(エピリー法)方法もありますが、誰にでもできるものではなく、私もこの治療法の経験はありません。また安静は必ずしも良いことではなく、頭や体位をめまいのする方向へ積極的に動かした方が、めまいに慣れて発作が起こりにくくなると言われています。

ただ私は過去に一度だけこのめまいの経験があるのですが、半日は動けませんでしたね。

いきいき生活通信 2012年 5月号

ABC検診について

皆さんはABC検診という検診を聞いたことがありますか。
既に行っている自治体や企業もあるのですが、まだ認知度はそれほど高くありません。しかしこの数年以内に全国的に広がるものと思われます。明石市でも先日、ABC検診についての講演が行われていましたので、いずれ市の検診としても行われるかもしれません。

ABC検診を簡単に説明すると、皆さんがどの程度胃癌になりやすいを分類するための検診と言えます。
すなわちA群であれば危険度はほぼゼロ%で、B→C→Dとその危険度が高くなっていきます。ABC検診であるのにDがあるのはおかしいのですが、最近ではABCの三つに分類するよりもABCDの四つ、あるいはABCDEの五つに分類するほうがより細かくその危険度を予測できるようになっています。

さて何を基に分類するかと言うと、ほとんどの胃癌が現在ではピロリ菌感染およびその感染によって起こる萎縮性胃炎が原因であると言われていますので、「ピロリ菌感染の有無」と「萎縮性胃炎の有無」を調べることで分類します。ピロリ菌感染の有無はピロリ菌に対する抗体価を調べることで、そして萎縮性胃炎の有無はペプシノゲン検査を行うことで確認することができ、いずれも血液検査でできますので、非常に簡単に調べられるという利点があります。これなら受診率も高くなりそうですね。

さて具体的な分類ですが、A群:ピロリ菌(-)、萎縮性胃炎(-)、B群:ピロリ菌(+)、萎縮性胃炎(-)、C群:ピロリ菌(+)、萎縮性胃炎(+)、D群:ピロリ菌(-)、萎縮性胃炎(+)、E群:ピロリ菌除菌後というように分類されています。
このように分類することで、例えばA群は5年に一回ABC検診を受け、B、C、D群はそれぞれ3、2、1年毎に内視鏡検査をすることで、多くの胃癌を効率よく早期に発見できるのではないかという研究もされています。ちなみにD群はピロリ菌(-)ですが、これは萎縮が高度に進行したため、ピロリ菌さえも胃に生息できなくなった状態です。ですからD群が最も胃癌の危険度が高い群と言えます。

このABC検診は費用の面でもこれまでの胃癌検診と比較すると随分安価になっています。
ですから、ABC検診が現在の主な胃癌検診であるバリウム検査や内視鏡検査に取って代わる日も近いかもしれません。

いきいき生活通信 2012年 4月号

睡眠時無呼吸症候群について

高校生の頃からだと思いますが、私は午後になると耐え難い眠気に襲われることがしばしばあります。十分な睡眠をとっていても眠たくなります。どうしてこんなに眠たくなるのだろうかとずっと不思議に思っていましたし、実際に我慢できずによく昼寝をしてしまいます。
私の場合、昼間に眠たくなる原因は私のひん曲がった鼻にあるようです。私の鼻は鼻中隔が曲がっている(鼻中隔彎曲症)ため、普段から鼻づまりがひどく、十分な酸素を吸い込むのには不適なのです。このことは睡眠中も同様ですので、寝ている間も体には十分な酸素が取り込まれているとは言えず、そのため眠りも浅い(レム睡眠)傾向にあります。したがって脳も体も睡眠不足状態で、朝起きても疲れがとれていなかったり、昼間に眠たくなるのです。
このような症状を伴い、かつ実際に睡眠中に口、鼻の気流が10秒以上停止(無呼吸)したり、50%以上気流が低下(低呼吸)したりすることが一時間に5回以上みられれば、睡眠時無呼吸症候群と呼ばれています。

睡眠時無呼吸症候群は脳梗塞などの中枢神経の異常で起こる場合(中枢性)もありますが、鼻から喉までの上気道のどこかに狭い部位があり、その部位で一過性に閉塞が起こることによって無呼吸となる場合(閉塞性)がほとんどです。私のように鼻が原因(鼻中隔彎曲症や鼻炎、副鼻腔炎など)のこともありますが、喉に原因(扁桃腺の肥大や舌根の沈下など)があることも多く、特に肥満の場合、喉の粘膜下にも脂肪が付きますので、結果的には喉が狭くなり、いびき更には無呼吸を引き起こすことになります。軽症であればそれほど問題にはならないのですが、無呼吸回数が多い場合、昼間の眠気のために交通事故を起してしまったり、あるいは夜間の低酸素が誘引になり脳梗塞や心不全を起したりすることがありますので、積極的に治療を受けたほうが良いでしょう。

治療ですが、鼻や扁桃腺が原因の場合は手術が有効です。肥満が原因の場合はもちろんダイエットが重要なのですが、鼻マスク(CPAP)も非常に効果があります。これは睡眠時に鼻にマスクを装着し、持続的に空気を送り込むことで、閉塞した喉の空間を広げる治療法であり、昼間の眠気などの症状は随分改善するようです。
いびきがひどかったり、昼間の眠気にお困りの方は一度睡眠時無呼吸の検査を受けてみて下さい。

いきいき生活通信 2012年 3月号

口周囲の病気について

(1)口内炎
口内炎の発生機序は原因不明ですが、明らかに口内炎ができやすい体質というものがあり、寝不足や疲労が要因になる事が多く、その他の要因としてビタミン不足や口腔内の乾燥などがあります。治療はステロイドなどの炎症を抑える軟膏や貼り薬ですが、稀に全身疾患の一症状としてみられることがありますので、注意して下さい。
(2)口角炎
主にカンジダというカビが原因ですが、ブドウ球菌などによる場合もあります。カンジダもブドウ球菌もそもそも体表に常在している菌なのですが、ビタミンB2などの不足や免疫力の低下によって過度に増殖することにより口角炎ができます。治療はカビを退治する抗真菌薬や抗生剤の外用です。
(3)口唇ヘルペス
俗に「熱の華」や「風邪の華」と呼ばれていますね。三叉神経に潜伏している単純ヘルペスというウイルスが抵抗力の低下したときに再活性化し、唇やその周囲で増殖して水疱を形成します。治療は抗ウイルス薬の外用で、一週間ほどで治ってきますが、何度も再発を繰り返しますので、兆候(ピリピリやチクチクなど)がみられたら早めに治療すると良いでしょう。また患部にはウイルスが大量にいますので、患部を触った場合は手洗いをして下さい。
(4)舌痛症
患者さんの多くは女性で、舌には特に異常がみられないのに、舌の先や縁にヒリヒリとした痛みやしびれが長期間繰り返しみられます。外来でも時々診ることがあります。原因は不明ですが、更年期の方に多くみられることから、ホルモンのアンバランスや自律神経の障害が関係しているようです。また歯科治療後にみられる場合もあります。治療は抗うつ剤や安定剤が有効ですが、あまり心配せずに根気よく治すことが必要です。
(5)味覚障害
「何を食べても味がしない」などの味覚障害は薬の副作用(利尿薬や解熱剤、その他多くの薬剤)や神経疾患(顔面神経麻痺や脳血栓など)、心因性、ドライマウスなどで起こりますが、最も多い原因は偏食やダイエットなどによる亜鉛欠乏だと言われています。亜鉛を含有した薬やサプリメントで補充する場合もありますが、食事(牡蠣やレバー、うなぎ、納豆、チーズなど)で改善することが望ましいでしょう。
(6)その他
舌が白くなったり、黒くなったりするのは主にある種の菌が異常増殖することによります。うがい薬などで口腔内の清浄化に努めて下さい。

以上、日常診療で比較的よく診る口周囲の疾患について簡単に説明しました。皆さん、体調管理にはくれぐれも気を付けて下さい。

いきいき生活通信 2012年 32月号

女性の更年期障害について

新年、明けましておめでとうございます。今年も皆さんのお役に立てるようなコラムを書いていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願い致します。

さて、今回は外来で比較的よくみられる女性の更年期障害についてお話してみます。更年期とは閉経(51歳)をはさんだ約10年間の期間であり、その時期には卵巣の機能が衰えて、エストロゲンやプロゲストロンなどの女性ホルモンの分泌が低下します。それまで分泌されていたホルモンが次第に減少するわけですから、体にもいろいろと変化が起こりそうですね。

具体的には自律神経症状と精神症状に分けられ、自律神経症状としてはホットフラッシュ(のぼせや発汗)や手足の冷え、耳鳴り、頭痛、肩こり、動悸、血圧の変動などです。精神症状としては不安やイライラ、抑うつ、不眠などです。
これらの症状は更年期の女性の2~3割程度にみられるようで、また更年期障害の発症や程度には性格(几帳面や神経質)や環境(家庭や職場でのストレスや不安)などが関連しているようです。

次に、治療についてですが、女性ホルモンの減少が原因ですから、その不足しているホルモン(特にエストロゲンが重要)を補えばよいわけですが、ホルモン療法には乳がんのリスクが上がるという報告もあり賛否両論あるようです。個人的には女性ホルモンの減少はごく自然のことなので、安易にホルモン療法を受けるのではなく、更年期障害で大変困っている患者さんに適応があるのではないかと思っています。

更年期の急激なホルモンバランスの変化に体をなじませる治療としては漢方療法も有効です。当帰芍薬散(冷え性)、加味逍遥散(不安、イライラ)、桂枝ぶくりょう丸(のぼせ、ほてり)、桂枝加竜骨牡蠣湯(めまい、耳鳴り)、半夏厚朴湯(不眠)などが使われています。
その他、安定剤も更年期障害の精神症状にはよく使われており、必要最小量で使用すれば、安全でかつ効果も十分に得られる場合があります。ただ、薬に頼るだけではなく、体と心が休まるように普段から心掛けることも大切です。
ちなみに私、昨年11月にビギンのコンサートに行ってきたのですが、すごく楽しいコンサートで、心が随分癒されましたよ。

いきいき生活通信 2012年 1月号