神明クリニック

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コラム(2018年)

12月号ゲノム医療について
11月号がん免疫について
10月号脳内の神経伝達物質について
9月号高齢者のがん検診について
8月号熱中症にご用心!
7月号私の運動療法について
6月号吹田スコアについて
5月号大腸ポリープについて
4月号高齢者糖尿病について
3月号急性扁桃炎について
2月号インフルエンザ(2017-2018)の大流行について
1月号2025年問題について

ゲノム医療について

先日、“ボヘミアンラプソディー”という映画を見ました。イギリスのロックバンド“クイーン”のボーカリストだったフレディ・マーキュリーの半生を描いた映画だったのですが、メンバーを演じていた俳優さんもそっくりで、すごく良かったです。残念ながらフレディ・マーキュリーは1991年に45歳の若さで亡くなってしまったのですが、死因はエイズによる気管支肺炎でした。もっといろんな曲を聞かせて欲しかったので、当時とても残念な気持ちになったことを覚えています。

一度はライブに行ってみたかったなあ・・・さて、超高齢化社会となって一生のうちに二人に一人ががんを患い、三人に一人ががんで亡くなる時代となりました。そのような状況を背景として政府はがん医療を充実させるべく「がんのゲノム医療」を推し進めています。ゲノム医療は近年目覚ましい進歩を遂げている分野で、来年には保険診療として認められる予定です。

がんのゲノム医療を簡単に説明すると、そもそもがん細胞はほとんどが遺伝子の変異を伴っていて、その遺伝子異常ががんの発生に関わっているわけですが、遺伝子検査によってその遺伝子異常を確認し、その異常に有効な薬を使うことによってより効率的に、そしてより効果的に診断・治療を行なうのががんのゲノム医療です。

ゲノムとは遺伝情報全体を意味していて、患者さんの血液細胞や異常細胞のゲノムを解析することで、病気の原因となる異常があるかどうかを調べます。もちろん病気の原因となる遺伝子異常のデータは国を越えて蓄積されていて、そのデータを利用することで、より効率的となるのです。そのようなデータは日進月歩世界中で報告されていて、病気の原因となる遺伝子異常が少しずつ明らかになっています。

そして治療は専ら分子標的薬と言われる薬が使われています。分子標的薬は特定の遺伝子の異常な働きを抑えることができますので、がんの増殖に関わる遺伝子の働きを抑えることで、より効果的にがんを治療します。

また次々に新たな薬が開発されていてゲノム医療が期待されている所以でもあります。肺がんでも乳がんでも、あるいはその他のがんでも遺伝子異常が同じでれば、同じ分子標的薬が使われたりするわけで、また同じがんでも遺伝子異常が違っていればそれぞれ違う分子標的薬が使われます。がんに対する概念も今後変わってくるかもしれず、即ちがんも臓器別的なとらえ方ではなく、遺伝子の異常によって区分されるようになるかもしれません。

今後、ゲノム医療は個人ごとに最も適した医療を提供するプレシジョン・メディシン(精密医療)と相まって進歩していくことでしょう。

いきいき生活通信 2018年 12月号

がん免疫について

今年度のノーベル医学生理学賞を京都大学特別教授である本庶佑先生が受賞されました。26年前に私が京大病院で研修医をしていた頃から非常に著名な先生で、実は今回のがん免疫の功績以前にも素晴らしい発見をされていて、抗体におけるクラススイッチ(IgM抗体がIgG抗体やIgA抗体などに変化すること)のメカニズムを解明したのが本庶先生でした。
この研究もノーベル賞級と言われていて、当時本庶先生がノーベル賞に選ばれていないことを残念に思う人が少なからず周りにいたことを覚えています。素晴らしい研究をずっと続けていてまさに雲の上の人です。

さて、今回の受賞はがん免疫についての重要な発見に対してであり、そしてその発見ががん治療において画期的な治療を生み出しています。以前のコラムで書いた超高額ながん治療薬“オプジーボ”という薬がその治療薬です。効果は限定的なのですが、その作用機序が非常に斬新なのです。
これまでのがんの治療は

  • ①手術療法
  • ②放射線療法
  • ③化学療法が主な治療法

で、いずれも直接がんを切除あるいは攻撃する治療でしたが、オプジーボは直接がん細胞に作用するわけではなく、患者さんに元々備わっている“がんに対する免疫”を利用してがんをやっつける治療法です。

そもそも、私たちの体の中では遺伝子の変異などにより異常な細胞が絶えず発生していると考えられていて、その細胞は多少なりとも正常細胞と違った部分(腫瘍抗原)を持っていて、したがって生体内ではウイルスや細菌などと同様に異物とみなされるわけです。

異物とみなされれば免疫(自然免疫と獲得免疫の2段階があります)によって体内から排除される仕組みなのですが、もしその異常細胞が免疫から逃れる術を持ち合わせていたらどうなるでしょうか。あるいは免疫そのものが弱っていたらどうなるでしょうか。異常細胞はどんどん増殖してがんになることは想像に難くありませんね。

実はがん免疫については随分前から研究されているのですが、残念ながらこれまで有効性のある治療法はみられませんでした。しかし今ではオプジーボなどの有効性のある治療薬が開発されたおかげで、“がん免疫療法”はがん治療において大いなる可能性があると期待されています。

いきいき生活通信 2018年 11月号

脳内の神経伝達物質について

元々自分に足りないからなのか、子供の頃から穏やかな人には少々憧れを抱いていて、だから自分もそのようになりたいと思って、自分なりに努力をしてきたつもりです。
しかし40代前半頃からでしょうか、いろんな事(特にちっぽけな事)にイライラしやすくなって、妻には「ほら、またすぐ怒る」と度々言われ、子供たちからは煙たがられ、だから、できるだけ心穏やかになろうと自身の心をコントロールしようとするのですが、ときどき上手くいかないといった、こんな日常を最近よく繰り返しています。

若い頃はきっと“快感ホルモン”と言われているドーパミンが脳内で適度に分泌されていたのだろうけれど、40代からは“緊張ホルモン”であるノルアドレナリンが過剰気味となって、その働きを抑えるセロトニンすなわち“幸せホルモン”が不足気味になっているのでしょう。

実は私たちの脳内にはこのような神経伝達物質と呼ばれる物質が気持ちを高ぶらせたり、落ち着かせたり、あるいは記憶や学習に関係していたりしています。この神経伝達物質が過剰に分泌されたり、不足していたりするといろいろと不都合なことが起こるわけです。

主な神経伝達物質としてはノルアドレナリン、ドーパミン、アセチルコリン、セロトニン、γ-アミノ酪酸(GABA:ギャバ)などがあるのですが、例えばアルツハイマー型認知症の場合、脳内のアセチルコリンの機能低下が一因と考えられており、実際に治療薬としてはアセチルコリンの濃度を高める薬が使用されています。

パーキンソン病の場合は、ドーパミンの不足が主因であり、治療薬にもドーパミンの補充薬が使われていて、永続的ではありませんが、劇的な効果がみられます。またうつ病ではセロトニンとノルアドレナリンの量が少なくなっていると考えられていて、薬でこれらの量を増やすことで脳の活動を活発にしてその症状を改善することができます。そして睡眠薬や抗不安薬として使用されている多くの薬は神経伝達物質であるGAVAの働きを強めることで効果を発揮します。即ちGAVAが不足すると神経が高ぶったり不眠になったりするわけです。

ですから脳内の神経伝達物質を適正に保つことは心穏やかに過ごすために重要であり、そのためには当たり前のことですが、規則正しい生活、適度な運動、家族や友人などと積極的なコミュニケーションをとることなどが推奨されています。

私はイライラしたりした時には深呼吸をして数秒間我慢するようにしています。
その数秒間で結構イライラが消えていくことがありますよ。

いきいき生活通信 2018年 10月号

高齢者のがん検診について

現在、科学的な効果が認められていて、国が推奨しているがん検診は胃がん、肺がん、大腸がん、子宮頸部がん、乳がんの五つのがん検診です。これらのがん検診はその検診を行うことで、程度の差はあるものの、そのがんによる死亡が確実に減少することがわかっています。

明石市でもこれらのがん検診は40歳以上(子宮頸部がんは20歳以上)であれば受けることができます。クリニックに通院されている患者さんにもよく勧めているのですが、患者さんによっては「もう私はしなくてもええねん」と言われる方もあります。私自身もその患者さんの年齢や病状あるいは人生観などを考えると、いつまでがん検診を受けたほうが良いのか判断しにくいことがあります。

例えば、大腸がん検診は便潜血検査ですので、高齢者でも安全に検査できます。しかし、その検査にひっかかると次は大腸内視鏡検査を受けることになります。大腸内視鏡検査では穿孔や出血、血圧低下などの合併症が少ない確率ですが起こり得ますし、また治療となると大腸がんに関わらず患者さんへの負担は大きく、高齢になるほどその負担も大きくなっていきます。

また折角がんを見つけて治療をしても、その方の余命ががんを放置していた場合より短ければ、無駄な検査・治療をしたことになるかもしれません。特に高齢者のがんは前立腺がんのように進行の非常に遅いがんがみられることも特徴的です。

一方でその患者さんの余命を推定することは難しく、その患者さんの何をもって(寝たきりであるとか認知症が進んでいるとかなど)、がん検診が無駄であるのかを判断する事についてはいろんな意見があるかと思います。
実はそんな現状を踏まえて厚生労働省ががん検診の対象年齢の上限を検討しており、各検診のメリットがおおよそ何歳ぐらいまであるのか調べており、いずれ何らかの指針が示されるでしょう。

しかし、日常の診療においては「あと数年生きられたらええわ」という患者さんもおられれば、「一日でも長く生きて欲しい」と思われる家族の方も少なくありませんので、高齢者のがん検診を年齢で制限するのはなかなか難しいでしょうね。
ただ、後期高齢者(75歳以上の高齢者)という言葉が使われてから10年程が経過しましたが、元気な後期高齢者が増えているように思うのは私だけでしょうか。

いきいき生活通信 2018年 9月号

熱中症にご用心!

記録的な集中豪雨の後にはこの猛暑。ここ10年ぐらい毎年夏になると「今年の夏は暑いわ」と言っているように思うのですが、実際に夏の気温は1920年代から徐々に上がり始めていて、高度成長期(1960~1970年代)に顕著となり、その後も年によって変動はあるものの、特に2000年以降になると猛暑日(最高気温が35℃以上)が珍しくなくなり、そして暑さのピークの期間が長くなってきていて、今年のように7月から猛暑日がみられ、残暑が厳しくなる傾向にあるのは疑いがないようです。

特に2010年は「観測史上最も暑い夏」と呼ばれていて、熱帯夜(夜間の最低気温が25℃以上)が何日も続いたことは今でもよく覚えています。
夏の気温の上昇と関連して熱中症患者の数もやはり増加傾向にあり、特に高齢者の割合が増えているのが特徴的で、また熱中症で亡くなる死亡者数も増えていて、その総数に占める65歳以上の方の割合も80%以上(1995年は54%)に急増しています。とにかく高齢者の方は熱中症に注意して下さい。

先日、真夏日の昼にあえて1時間程庭仕事をしてみたのですが、異常な発汗とともに、ふらふらになりました。ちょっと過信していたようで、本当に「危ないな」と思いました。真夏日のお昼に屋外で活動することは極力控えて下さい。仕方がない場合はこまめに休憩して水分補給を行って下さい。そして室内ではエアコンと扇風機を併用して室温を28℃前後に保ちましょう。高齢者の熱中症は半数以上が自宅で発生しています。また症状に気付きにくいことも要因だと思われますので、1人暮らしの方は誰かが注意してみてあげないといけないでしょう。

熱中症はその症状および具体的な対応の観点から軽症、中等症、重症の三つに分類されています。
軽症の場合は眼前暗黒などの失神症状や、熱痙攣といって水分だけを補給してミネラルが不足した時に起こる手足のしびれ、こむら返りなどの症状がみられます。日陰で体を冷やして、ミネラルおよび水分の補給をして下さい。
中等症では多量の発汗に伴う脱水症状で頭痛、吐き気、めまい、強い疲労感などがみられます。この場合は病院を受診して点滴などの処置をして貰った方が良いでしょう。
重症の場合はいわゆる熱射病で、汗もかけずにひたすら体温が上昇する状態で、意識障害、高体温となり、生命の危険がありますので救急対応となります。

熱中症の予防には個人の対処だけでなく、社会全体で熱中症に対する意識を高めて、皆でお互い声を掛け合っていくことが重要だと思います。

いきいき生活通信 2018年 8月号

私の運動療法について

「何かしなければいけない」という強迫観念に駆られて水泳を始めてから、この夏で4年になります。あまり無理をせずに細々と続けているのですが、それでも週に2回ほど、毎回1kmは泳いでいます。消費カロリーに換算すると約300~400kcalぐらいでしょうか。景色の変わらないプールの底を眺めながら黙々と泳いでいます。
いつも前半は考え事をしながら、途中からは「となりのレーンで泳いでいる方に負けないように」と必死に食らいつきながらもジワジワ離され、そして後半は「あともう少し」と最後の気力を振り絞って泳いでいます。「こんなのでよく続いているな」と自分でも思っているのですが、何とか続いています。

私がしている運動はこの水泳と週に2回程度、“何かのついで”に5~6kmほどウォーキングをしているぐらいです。仕事では座っている時間が長いので、これでもまだまだ足りないと思っているのですが、しかし運動を始めてから随分健康的になったと感じています。

患者さんの中には非常に熱心に運動されている方もいらっしゃいますので、私なんかが運動のお話するのはおこがましいのですが、今回はざっくりと私の運動療法についてお話してみます。

まず、運動すると

①心肺機能が高まる
②脂肪が減って筋肉が増える
③ストレスが解消する
④血糖が下がる
⑤善玉コレステロールが増える
⑥ついでにビールが美味しくなる

など良いことずくめです。

私の場合①~③と⑥は実感しているのですが、運動している一番の目的は⑥のビール?ではなくて、④と⑤が関連している動脈硬化性疾患(脳梗塞や心筋梗塞など)を防ぐためです。メタボも解消したいので、運動はできるだけ脂肪を燃焼できるように20分は続けるようにしています。20分の早歩きでおよそ1.5kmの距離を歩くこととなり、約80kcalを消費できます。

ちなみに個人差はありますが1万歩はおよそ7kmに相当し、時間にして約90分になります。1日1万歩を目標にしたいところですが、歩く時間を確保できないので、毎日80kcal×3=240kcal程度の運動を目標にしています。

しかし私の場合毎日の運動も難しいので、1週間単位で目標を設定していて、水泳とウォーキングを足して何とか一週間分の運動量を確保しようと心がけています。特にウォーキングについては“何かのついで”に歩くようにしていて、買い物や行楽などを利用して歩く距離を伸ばすことで、運動量を増やすようにしています。こんな風に書いていますが、あまり自分を追い込むと苦しくなるので、実際はもっといい加減なんですけどね。

いきいき生活通信 2018年 7月号

吹田スコアについて

“吹田スコア”と言われても皆さんはなじみがないでしょうね。大阪・吹田には、国立循環器病センターがありまして、1989年からどのような人が心筋梗塞などの冠動脈疾患になりやすいのかを研究しています。

そして、都市部在住の健常者5886人を平均11.8年間追跡調査し、その間213例の冠動脈疾患を観察して、年齢、性別、糖尿病、血圧、LDLコレステロール(悪玉)、HDLコレステロール(善玉)、慢性腎臓病の程度によってスコア化することで、人それぞれが10年間でどのくらい冠動脈疾患を発症しやすいかを予測するリスクスコアを2014年に発表しました。要するに皆さんが今後10年間で冠動脈疾患を発症するおよその確率がわかるわけです

それまで使用されていたのは欧米のリスクスコアだったため、日本人に当てはめるのは正確でないと考えられていました。一方、吹田スコアの予測は実際の発症確率と有意な差がみられなかったため、より正確な予測が可能となり、したがって冠動脈疾患の予防にも貢献できると期待されています。実際に2017年に動脈硬化学会から提唱されたガイドラインにも使用されており、私たち医師が患者さんを診療する上でも非常に役立っています。

具体的な話をすると「LDLコレステロールをどのくらい下げるべきか」というのは個々の患者さんによって違っていて、例えば過去に心筋梗塞などの冠動脈疾患や脳梗塞の既往が無くて、糖尿病や慢性腎臓病などではない方は吹田スコアによって評価します。

私の場合、

  • 年齢45~54歳→38点
  • 男性→0点
  • 喫煙なし→0点
  • 血圧正常→0点
  • HDLコレステロール40~59→-5点
  • LDLコレステロール100~139→5点
  • 耐糖能異常なし→0点
  • 早発性(男性55歳未満、女性65歳未満)冠動脈疾患の家族歴なし→0点

で合計38点となります。38点は低リスクに該当し10年間の冠動脈疾患の発症確率は1%となります。因みに71点以上は28%以上となります。低リスクの私の場合、LDLコレステロールの管理目標値は160以下(non-HDLコレステロールは190以下)となりますので、今のところコレステロールの治療(食事・運動および薬物療法)は必要ないということになります。

このように一人ひとりの冠動脈疾患のリスクを評価し、リスクの高い人にはしっかりと治療し、リスクの低い人には過剰な治療にならないようにすることは医療費削減にも繋がり、そういった意味でも吹田スコアの意義は非常に大きいでしょう。

いきいき生活通信 2018年 6月号

大腸ポリープについて

「そろそろ大腸内視鏡検査を受けようかな」と思っています。理由は

  • 大腸がんそのものが40歳代から増加し始め、加齢とともに増えていくこと
  • 男性は女性の約2倍の罹患率であること
  • 飲酒や肉食、高身長などが危険因子とされていること

すなわち私には、大腸がんに罹る十分な条件が揃っているからです。また、大腸がんはきちんと検査を受けておれば早期の段階で発見され治癒する確率が比較的高いがんであり、何よりも今の時点で「私の大腸にはポリープがあるのかどうか」それを調べて欲しいというのが本音です。

“ポリープ”というと皆さんの印象は“良性の突起物”という感じだと思いますが、大腸ポリープの場合は必ずしもそうとは限りません。

現在、大腸がんの90%程度はポリープの状態から数年間かけてがんに移行していくと考えられており、ポリープがあるかどうかは非常に重要な意味があります。そして大腸ポリープはがんへ移行する可能性のある“腺腫”と呼ばれるタイプと、ほとんどがんへは移行しない炎症性や過形成性ポリープと呼ばれるタイプに分かれていて、大腸ポリープの80%以上は腺腫性のポリープです。
したがって以前は「腺腫は前がん状態」と考えられていて、ポリープは全て切除したりしていましたが、最近ではがんに移行するのはほんの一部であることがわかっています。

また、腺腫性ポリープは段階的に大きくなっていく性質があり、特に大きさが1cmを超えるとがんである可能性が急激に高くなりので、現在は多くの施設で5mm以上のポリープが摘出の対象とされていて、また5mm以下でも形がいびつだったりする場合はがんの可能性があるため摘出されています。なかにはポリープは全部切除している施設もあるようです。
さて、ポリープがあった場合は個々の患者さんによりますが、手遅れにならないために通常は1~3年後に再度大腸内視鏡検査を受けることになります。

このようにポリープから移行する大腸がんは十分用心しておればあまり心配ないので、そろそろ検査を受けようかと思った次第です。尚、ポリープと関連のない大腸がんについてはまだよくわかっていないようですが、どうも遺伝子変異の部分に違いがあるようで、最近では意外に多いことも指摘されていますので、定期的な便潜血検査もお忘れなく!

いきいき生活通信 2018年 5月号

高齢者糖尿病について

花粉症、私はこれまでそんなに酷くなかったんですけどね。今年はちょっときついです。
診療中もくしゃみの連発で、患者さんには「風邪ですか?」と何度も気を遣って頂き、ご迷惑をおかけしました。空気清浄機のお陰で何とか乗り切れそうです。

さて、今回は高齢者の糖尿病についてです。高齢になると糖尿病になりやすく、65歳以上の5人に1人は糖尿病あるいはその疑いが強いと推定されています。
その理由は、

  • ① 加齢に伴い、膵臓から分泌されるインスリン(血糖を下げる唯一のホルモン)の量が減少すること
  • ② 筋肉量が減少することで、血中の糖を取り込めなくなり糖の利用(代謝)が低下すること
  • ③ 肥満によりインスリンの効果が低下(インスリン抵抗性が増大)すること

などが考えられています。
実際に普段の診療でも加齢とともに糖尿病の患者さんが増えていることはすごく実感していて、何年も診ている患者さんにある日の血液検査で「あなたは糖尿病ですよ」と診断することもしばしばあります。

糖尿病は血管が詰まる病気ですから、怖いイメージがあると思うのですが、そのような合併症がみられるまで何年もかかりますから高齢者になってから発症する糖尿病については必ずしも心配することはありません。発症年齢や健康状態、あるいは認知症の有無で治療目標も変わってきます。

皆さんもご存知かと思いますが、糖尿病のコントロールの指標として専らHbA1c(グリコヘモグロビン)を測定していて、通常は6.5%以下が目標値です。6.5%以下に維持していれば、合併症のリスクも低下するわけですが、高齢者の場合はそうであるとは限りません。
特に低血糖のリスクのある患者さんではHbA1cは6.5%以上、場合によっては(寝たきりの患者さんなど)7.5%以上にするように推奨されています。厳格な血糖コントロールは必要ないだけでなく、かえってマイナスになることがあるということです。

しかし、高血糖でも構わないというわけではなく、脳卒中などの血管障害や腎症の進行あるいは認知症や欝の発症などのリスクと関連があると言われていますから、ある程度にコントロールをする必要はあります。ゆるすぎず、きつすぎず、そして何よりも重要なことは一人一人の患者さんの生活や人生をトータルで考えた治療目標が必要であるということだと思います。

糖尿病と診断された高齢者の方は、まずはどの程度にコントロールすれば良いか主治医の先生と相談してみて下さい。

いきいき生活通信 2018年 4月号

急性扁桃炎について

もう10数年前のことですが、夏の暑い日に一家五人で京都から明石へ引っ越してきました。
ただ、引越しが済んで安心したのか、引っ越してきたその夜に高熱がでました。鏡で自分の喉を見てみると両側の扁桃が赤く腫れていて、白い膿もみられました。急性扁桃炎だったのですが、解熱剤を使っても熱は下がらず、おまけに翌日は早朝から京都で二泊三日の当直勤務があって、“絶体絶命のピンチ”はちょっと大袈裟ですが、結構大変だったことがありました。

よっぽど疲れていたのでしょうね。急性扁桃炎に罹ったのは後にも先にもそのときだけです。
皆さんも一度や二度はあるのではないでしょうか。何度も繰り返して(習慣性扁桃炎)、扁桃摘出術を受けた方も少なからずおられるかと思います。

さて、その扁桃についてですが、扁桃にも口蓋扁桃や咽頭扁桃などいろいろとあるのですが、皆さんが普段「扁桃腺」と言っているのは口蓋扁桃のことで、リンパ組織の塊のようなものです。また、扁桃は分泌物を出したりする腺組織ではないので、「扁桃腺」ではなく「扁桃」というのが正しい名称です。

扁桃はリンパ器官ですから、絶えず鼻や口から侵入してくるウイルスや細菌に対して防御の役割を果たしていて、特に小児期(4~8歳頃)にはその働きが最も活発になり、大きさも最大になります。しかしその後は扁桃以外のリンパ組織も発達してくるため、次第に扁桃の重要性は少なくなっていきます。だから扁桃を摘出しても大丈夫なのです。

実際に急性扁桃炎は扁桃が未発達な子供の頃に多くみられ、侵入してきた病原体が優勢になることで炎症が起こり、赤く腫れたり、膿んだりするのです。ちなみに白い膿はリンパ球や細菌の塊、剥がれた粘膜上皮、食物残渣などによって形成されています。
また、大人の場合は私がそうであったように疲れやストレスが続くと、免疫力が低下して急性扁桃炎を発症しやすいようです。

疲れやストレスでなぜ免疫力が低下するのかというのは諸説ありまして、緊張状態が維持されると交感神経の優位な状態が続き、自律神経のバランスが乱れたりすることや、その際体内から免疫を抑制するようなストレスホルモンが分泌されることなどが関係していると言われています。

皆さん、もうすぐ年度初めで異動の時期ではありますが、くれぐれも疲れ過ぎには注意して下さい。

いきいき生活通信 2018年 3月号

インフルエンザ(2017-2018)の大流行について

インフルエンザの患者さんを週に何人診断したのかを保健所に報告するよう指定された医療機関が全国に約5000あります。そしてその地域全体で1医療機関あたり新規患者数が週に1人以上みられると流行期に入ったことになり、10人以上で注意報レベル、30人以上で警報レベルとなります。

今年1月の第三週の患者数は1医療機関あたり1週間で約52人(兵庫県は約51人)となり、現在の調査方法となった1999年以降で最多の数となりました。
すなわちこの20年弱の間で最もインフルエンザの患者さんが多い週だったわけです。

私も年明けから「今年は多いな」と感じていて、「このクリニックもいつの間にかたくさん患者さんが来てくれるようになったな」と感慨深く思ったりもしたのですが、少々勘違いをしていたようで、全国的に例年の倍くらいに流行していたんですね。

大流行の原因は毎年2~3月にかけて流行するB型が今年は早めに増えていて、A型とB型が同時に流行したためではないかと言われています。ということはピークを早く迎える分だけ、今後は例年よりも少なくなっていくのかなとも思うのですが、まだ原因がはっきりとしたわけではありませんから、皆さん用心して下さい。

ちなみに私は、きっと大量のインフルエンザウイルスを顔から浴びているはずなのですが、大丈夫です、今のところは。もちろんワクチンは接種していますが、おそらくこの十数年の間に大勢のインフルエンザの患者さんと接してきていますので、インフルエンザに対する免疫が自然と十分に備わったのでしょう、おそらく。

さて、インフルエンザの感染ですが、咳やくしゃみ等による飛沫感染がほとんどだと私自身思っていたのですが、実は接触感染も多いようで、インフルエンザウイルスは条件が整えば空気中でも数時間は生存できるらしく、したがってドアノブやテーブルなどに付着したウイルスが手に付着して、それを鼻や口にもっていくことで感染(接触感染)するようです。
したがって手洗いや消毒は非常に重要で、またマスクも手を口や鼻にもっていきにくくなるので有効と考えられています。

インフルエンザウイルスは今年も予想通りA型2種類とB型2種類がみられていて、A型とB型両方に感染する人やA型に2回感染する人もいました。インフルエンザに一度罹った方も油断は禁物です。
皆さん普段から体調を整えて、手洗いとマスク、そして感染者が近くにいる場合は消毒もお忘れなく。

いきいき生活通信 2018年 2月号

2025年問題について

皆さん、明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い致します。

さて、2018年がスタートしたわけですが、今から7年後の2025年頃は世の中どうなっているのでしょうかね。おそらく私は昭和、平成そして新たな年号の三つの元号を生きているはずで、そしてその頃には還暦まであと数年という歳になっていて、もしかしたらおじいちゃんになっていて月並みの幸せを感じているかもしれず、もしかしたら世界が大変な状況になっていて、それどころではないかもしれません。
ただ、このまま無事に時が過ぎゆけば、2025年には5人に1人が75歳以上で、3人に1人が65歳以上という未曾有の超高齢社会に日本は突入することになります。800万人いるとされる団塊の世代(1947年~1949年生まれ)の人たちが75歳以上になるのが2025年なのです。
そうすると世の中のことは?ですが、少なくとも医療費と介護費は必ず増大しています。

医療費と介護費は主に保険料と税金で賄われていますから、保険料や消費税などの税率が更に上がったり、窓口での自己負担額を増やしたりして対応することになるでしょう。ただし、それでも限界がありますので、今の医療のままでは財源が足りません。
ですから2025年問題とは「日本の今後の医療のあり方が問われることになる」とも言えます。

高齢者の方々の尊厳を守り、かつ効率よく医療・介護が行えるようなシステムの構築が必要となるのですが、この問題に対して国が推進している方針が“地域包括ケアシステム”と言って、住み慣れた環境で自分らしい暮らしが人生の最後まで続けられるように医療や介護などが一体となって地域で支援していくことです。
そしてその核となる考え方のひとつとして、人生の最後は自宅で迎えたいと思っている人が多いこともあり、できるだけ施設よりも在宅での介護を推し進めていこうとしています。

私自身は特に「医療と介護が一体となって」というくだりの部分がとても重要に思えていて、実際にそのことを日々実感する毎日なのです。介護スタッフからの患者さんの介護状況についての情報提供があると、外来診療だけでは気付かないことがたくさんあって、本当に助かります。高齢者の医療を考える上で、介護はその中心的な部分であることにようやく私も気付き始めたところです。
2025年問題も含めてこれから高齢者に対する医療と介護はどんどん変化していくことになるでしょう。

いきいき生活通信 2018年 1月号