神明クリニック

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コラム(2015年)

12月号大腸がんについて
11月号下肢静脈瘤について
10月号4価インフルエンザワクチンについて
9月号サルコペニアについて
8月号高齢者の熱中症について
7月号“MERS(中東呼吸器症候群)”について
6月号危険な頭痛について
5月号腸内フローラについて
4月号高血圧あれこれ
3月号溶連菌感染症について
2月号ジェネリック医薬品について
1月号2014-2015年度 インフルエンザについて

大腸がんについて

先日、大相撲の北の湖親方が直腸がんのため、62歳の若さでお亡くなりになりました。とても残念です。
父の影響で、子供の頃はよくテレビで大相撲中継を見ていたのですが、まさに北の湖全盛の時代で、千秋楽の輪島との取り組みはいつも緊張しながら見ていたのを覚えています。弱音を吐かずに、亡くなる前日まで理事長の公務をこなしていたそうで、病状から考えると、常人ではとてもできることではなく、「北の湖は最期まで強かった」と感心しました。

さて、北の湖親方が患った直腸がんは、大腸がんの約40%を占め(その他は結腸がんと盲腸がん)、そして大腸がんは今や、女性のがんの死亡率第一位で、男性では第三位となっており、その発生も年々増加しており、非常に多いがんですから、要注意のがんと言えます。
大腸がんの原因については、食生活の欧米化と関連があるとされており、特に動物性の脂肪の過剰摂取が考えられていますが、遺伝的な場合を除けば、今のところはっきりとした原因は特定されていません。

がんは早期発見が基本ですので、やはり定期的ながん検診を受けることが重要です。検診は便潜血検査(二回連続)が有効で、簡便で痛みもなく、費用も安いにもかかわらず、この検査で陽性であった場合、約3%に大腸がんがみつかると言われており、また早期がんの約60%、進行がんの約90%がこの検査で陽性となります。そして大腸がん検診を受けている人では大腸がんによる死亡率が低いこともわかっており、私の診療経験においても、この検査は非常に良い検査だと実感することが何度もありました。
また大腸がんの大半はポリープからゆっくりと発生・進行するため、毎年検査を受けていれば、早期にみつかる確率は高くなるでしょう。

ただ検査で陰性だからといって大腸がんは無いとは言えませんので、下血以外にも、便が細くなったり、便は出ないのに便意を感じたり、急に便秘や下痢になるなどの症状が出てくれば注意して下さい。
これらの症状が出てから、大腸がんがみつかった場合は進行がんの可能性が高いのですが、それからでも治癒することは少なくありませんので、早めに検査を受けて下さい。

大腸がんはがんの中でも早期に発見し易いがんです。皆さん是非、定期的に便潜血検査を受けましょう。

いきいき生活通信 2015年 12月号

下肢静脈瘤について

時間が経つのは誠に早いもので、今年も残すところあと一ヶ月と少々ですね。皆さんは実りのある一年になりそうですか。私はあれこれとやりたいこと、あるいはやらないといけないなと思っていたことがあったのですが、結局何も変わらず、ただ時間が過ぎるばかりです。
そして最近はワクチン接種に追われる日々ですが、今年のゴールも見えてきたので「何とかすっきりとこの一年を締めくくりたい」と思っています。

さて、今回は下肢静脈瘤についてお話してみます。
下肢静脈瘤は日本人のおよそ10人に一人に認められ、特に女性に多く、非常に身近な疾患です。ご自身を含めて、周りの方のふくらはぎをよく観察してみて下さい。コブのように太くなった静脈や青みがかったクモの巣状や網目状にみえる細い静脈がみられませんか。見たことありますよね。それが下肢静脈瘤です!

そもそも静脈の働きは動脈によって全身に運ばれ、役目を終えた血液を心臓に戻すことです。特に下肢では重力に逆らって血液を下から上へ送らなければなりません。そのために重要な役割を担っているのが、筋肉によるポンプ作用と静脈弁です。即ち、ふくらはぎ等の筋肉が収縮することで、静脈内の血液が押し上げられ、そして筋肉が弛緩する時には静脈弁が閉じることで、逆流を防いでいるわけです。このようにして下肢の血液を心臓に戻しています。

しかし、もし弁が壊れてしまうとどうなるでしょうか。
当然、血液は逆流し、静脈内に溜まることになりますね。これが何年も続くと次第に静脈の壁が引き伸ばされ、太く拡張した状態になります。そして静脈内の圧力が上がりますので、血管内の水分が血管外に漏れ出し浮腫みとなったり、下肢のだるさを感じたりします。また炎症を引き起こし、湿疹や潰瘍ができたりすることもあります。
弁の破壊には、一箇所での長い時間の立ち仕事や妊娠、肥満、遺伝等が関係しています。

治療が必要とされるのは、皮膚炎を起している場合や症状があってつらい場合、また美容上気になる場合ですが、クモの巣状や網目状の静脈瘤は基本的に治療の必要がありません。
治療は

  • ①血管に薬を注射して固めて潰す(硬化療法)
  • ②太もものつけ根から膝までの血管を引き抜く手術(ストリッピング手術)
  • ③血管の中にカテーテルを入れて、血管の中から高周波やレーザーで焼いて潰したりする治療(血管内治療)

が主な治療法ですが、最近はより侵襲の少ない血管内治療が中心のようです。
静脈瘤が生命に関わることはありませんので、過度な心配は無用ですが、症状のある方は一度病院で相談してみて下さい。

いきいき生活通信 2015年 11月号

4価インフルエンザワクチンについて

先の国会で集団的自衛権を柱とした安全保障関連法案が成立しましたね。テレビでは連日、その是非が議論されていましたが、立憲主義を揺るがすような事案であったことを考えると、「何だか虚しいな」というのが今の私の正直な気持ちです。

さて、早いもので、今年もインフルエンザワクチン接種の時期になりました。
これまでのワクチンにはその冬に流行すると予測されたA型2種類とB型1種類の3種類の抗原(3価)が含まれていましたが、今回からB型が2種類に増えて、全部で4種類の抗原が含まれた4価インフルエンザワクチンに変わりました。
B型の種類が増えた理由ですが、そもそもB型は山形系統とビクトリア系統の2種類の系統(A型は144種類)しかなく、どちらか一方が流行する傾向にありました。したがってこれまでは、どちらかが流行すると予測してワクチンを製造していたのですが、その場合、予測が外れることも当然ながらありました。またここ数年は混合流行することがあり、最早これまでの方法ではB型インフルエンザの感染を十分に防ぐことができなくなってきたわけです。

確かに以前からB型インフルエンザについてはワクチンの予防効果は弱いと言われており、私自身の経験でもそのような印象がありました。このような状況の中で、昨年アメリカでは4価のインフルエンザワクチンが認可され、次いで日本でも今シーズンから使用されることになった次第です。

さて、B型は2系統しかなく、今回からワクチンがその2系統に対応しているのであれば、万全なのでしょうか。
実はそうではありません。同じ系統でも流行する地域によって少しずつ違い(変異)がみられることがあるため、ワクチン製造の元になったウイルス株と実際に流行するウイルスとは同じ系統であっても若干違っていることがあるわけです。そしてこの変異が大きいとワクチンの効果も不十分になるのです。
またワクチンを接種しても抗体が十分に作られないこともあり、特にB型ではこれまでこの傾向が強いと言われています。ですから3価が4価になったからといっても、効果についてはそれ程変わらないかもしれません。あしからず。

いきいき生活通信 2015年 10月号

サルコペニアについて

先日、明石公園内を足早に歩いて明石駅に向かっていると、女子中学生の運動部らしき団体にあっという間に追い越されてしまいました。 後から近づいて来るのがわかったので、少しスピードを上げたのですが、並ぶ間もなかったですね。ちょっとショックでした。 少し前までは「まだまだ若い人には負けないぞ」という自信があったのですが、どうも根拠がなかったようです。
高齢者の方からは「何を言っているんだ」とお叱りを受けるかもしれませんが、毎日のように老眼の進行や体力の衰えを自覚させられると、さすがに「もう若くはないな」と痛感する今日この頃です。

さて、個人差はありますが、40歳を過ぎると少しずつ筋肉量は減少していくそうで、特に高齢者ではこの傾向が顕著になります。加齢によって筋肉量や筋力が低下する状態を医学用語で“サルコペニア”と言い、ギリシャ語でサルコは「筋肉」、ペニアは「減少」を意味しています。

このサルコペニアが進行すると、身体機能の低下をもたらし、転倒が多くみられたり、骨折や寝たきりの原因になることは想像に難くないでしょう。 日本のような超高齢者社会においては、サルコペニアの病態は介護予防という点からも非常に重要になってきています。

では、サルコペニアの進行を最小限にするためには、どうすればよいか。それは「栄養」と「運動」に尽きると言えます。骨が常に作られては(骨形成)、壊されている(骨吸収)のと同様に、筋肉も常に合成と分解を繰り返しています。このバランスが維持されていれば良いのですが、高齢者では分解が合成を上回ることで、筋肉量や筋力が低下します。筋肉の合成にはタンパク質(アミノ酸)の摂取および運動による刺激などが必要で、分解には炎症性物質などが影響します。

分解を減らすのは難しいようなので、筋肉の合成を増やすことを考えると、「栄養」と「運動」が重要になるというわけです。栄養についてはタンパク質をしっかり摂取すること、そして運動については比較的強度の強い筋力トレーニングを行うことが大切で、上半身よりも、筋力低下が著しく、生活への影響が大きい下半身、特に大腿四頭筋(太もも)を鍛えることがサルコペニア対策としてお勧めです。
運動制限のない方は早速、“スクワット”を始めてみましょう。

いきいき生活通信 2015年 9月号

高齢者の熱中症について

先月、中学生の軟式野球の試合を観る機会がありました。
その日は快晴で、午前10時頃から午後2時ぐらいまで、2試合と少し観戦したのですが、球場に屋根はなくて、まさに日干し状態でした。“日傘があればな”と思っても後の祭りで、目的の試合が終わるころには喉はカラカラ、体はフラフラでした。男性も日傘は必要ですね。軽度の熱中症だったと思います。

さて、熱中症は地球温暖化やアスファルトによるヒートアイランド現象などの影響で増加傾向にありますが、スポーツや職場に関連した熱中症よりも高齢者の非労作性の熱中症が増えていて、 毎年この時期には熱中症による死亡がニュースになりますね。

そもそもヒトの体温は普段37℃前後に維持されているのですが、これはその温度だと、体内の酵素が効率良く働くためです。
例えば、試合をしていた球児たちは運動によって体内で熱を産生しますが、そのために体温が40℃になることはなく、その熱は汗の蒸発や風によって外に逃がされたり、冷たいもの(保冷剤など)に触れたり、冷たいものを摂取することでその熱を移したりして、37度前後に体温を保っているのです。

ヒトの体は真によくできていて、感染症の際には体温の設定を上げたりします。その方が、病原体の増殖を抑えるのに生体にとって都合が良いためです。
しかし熱中症の場合は体内の設定温度が37℃であるにもかかわらず、高体温になるので、生体にとって非常に都合が悪く、異常な状態と言えます。

高齢者が熱中症になりやすく、また重症化しやすいのは、

  • ①不快な環境を不快と思いにくい、あるいは思っていても動けない。
  • ②皮膚の温度に対する感受性が低下していて、汗を掻きにくい。
  • ③体内の熱を血流に乗せて全身に送る心臓の機能が低下していて、熱がこもりやすい。
  • ④脱水などにより血液量そのものが減少している。
  • ⑤腎臓の機能が低下しているため、水・電解質の異常を来たしやすい

などが原因です。
しかし、これらの生理的な要因だけではなく、実は独居や貧困などの社会的要因も大いに関連しています。

現在、要介護高齢者は年々増加しており、そのうち4人に1人は独居です。そして老老介護も相当数存在しています。
このような状況の中で、高齢者の熱中症を予防することは、最早、医療だけの問題ではなく、社会の問題として考えていかなければならないでしょうね。

いきいき生活通信 2015年 8月号

“MERS(中東呼吸器症候群)”について

私、水泳を始めてもうすぐ一年になります。1km少しを週に3回程ですが、おかげでメタボとおさらばし、少しは体力がついたかなと思っています。
ただ、コレステロールや血圧の薬と同じで、続けているうちは良いのですが、やめるとすぐに元に戻るのでしょうね。ということは、当分やめられない?いやいや、どうみてもそんなに長く続かないと思う。次の冬を越えられるかどうか正直自信がないのですが・・・

それはさておき、今回はお隣の韓国で話題になっている“MERS:マーズ”についてお話してみます。
マーズは2012年に初めて確認された呼吸器感染症で、原因となるウイルスはマーズコロナウイルスと呼ばれています。2003年に中国で流行したSARS:サーズ(重症急性呼吸器症候群)の原因ウイルスもコロナウイルスの仲間で、サーズコロナウイルスと呼ばれていますが、マーズとサーズは病名も症状も良く似ていますが、違う病気です。

マーズは病名のとおり、主に中東地域で発生していて、感染者の大半は中東地域へ渡航した際に感染したと考えられています。現在、ウイルスの保有動物としてはヒトコブラクダが疑われていますが、どのようにしてヒトに感染したかはわかっていません。
韓国での最初の感染者も中東から帰国した後に発症したのですが、問題はその後に院内で感染が拡がり、6月末の状況では感染者182人で死亡者32人と報告されています。季節性インフルエンザと比較すると致死率がかなり高いですね。

ヒトからヒトへの感染は飛沫感染(咳やくしゃみなど)や接触感染ですが、感染性は弱く、インフルエンザのように次々に感染が拡がることはなく、韓国での感染も終息に向かうものと思われます。
症状は発熱、咳、息切れなどですが、軽症の方も少なからずいるようで、重症化するのは主に高齢者や糖尿病、呼吸器疾患などの基礎疾患のある方に多いようです。

昨年、世界を震撼させたエボラ出血熱は日本に持ち込まれる段階でチェックされ、さすがに当クリニックに感染者が来ることはないだろうと思っていましたが、今回は韓国での出来事で、しかも発熱や咳の患者さんを診察することは日常茶飯事ですから、もしかすると何も知らずに感染者を診察することがあるかもしれないと思うと、少々焦りました。
そんなわけで、今回のコラムは急いでちょっとだけ勉強した“MERS:マーズ”について書いてみた次第です。

いきいき生活通信 2015年 7月号

危険な頭痛について

一、 くも膜下出血:突然の激しい頭痛で、「後頭部をハンマーで殴られたような」と表現されることもあります。およそ1/3の人が死亡し、1/3の人に後遺症が残る、正に危険な頭痛の代表格です。原因は脳動脈瘤や脳動脈奇形の破裂によることが多く、高血圧や喫煙などのリスクがない健康な方にも起こります。
MRA検査を受けていないと自分に動脈瘤があるかどうかはわかりませんので、脳ドックも時々受けたほうが良いこと、そして2親等以内にくも膜下出血の家族歴がある方は要注意です。キーワードは突然の激しい頭痛です。

二、 解離性脳動脈瘤:首の後側には椎骨脳底動脈が走行しており、この動脈の内部が裂けて剥がれることで発症します。裂けた部分はそのまま瘤になることもあれば、破裂してくも膜下出血を来たすこともあり、また裂けた部分で動脈が閉塞したり、あるいは血栓が遠位に流れて脳梗塞を起すこともあります。
症状は一側の急激な強い後頭部・頸部痛ですが、慢性の頭痛との区別が難しい場合が多々あります。また動脈硬化とは関係なく、40歳代を中心(20~60歳代)に多くみられることが特徴で、決して稀な疾患ではなく、無症状で自然治癒する例も含めると一般成人人口の10%に起こっているというびっくりするようなデータもあるようです。キーワードはうなじの部分から後頭部にかけての急激な強い痛みです。

三、 脳腫瘍:脳内に余分な腫瘍ができると、その分だけ脳内の圧が上昇(頭蓋内圧亢進)し、頭痛や嘔吐などがみられるようになります。この場合の頭痛は起床時に最も強く、午前中に除々に軽快していくことが特徴です。また腫瘍が脳内の痛みを感じる部分を圧迫することでも頭痛が生じます。キーワードは早朝起床時に多い頭痛です。

四、 脳炎・髄膜炎:脳や脳を包んでいる膜(髄膜)に菌やウイルスが感染すると脳炎・髄膜炎を発症します。持続性の頭痛と高熱が特徴で、意識がもうろうとしたり、痙攣がみられたりすることもあり、また首の後側を痛がって、首を前に曲げられない(項部硬直)などの症状もみられます。風邪や副鼻腔炎、中耳炎が原因になることがあります。キーワードは持続性の頭痛と発熱です。

五、 慢性硬膜下血腫:高齢の男性や大酒家に多くみられ、頭部打撲後(打撲がはっきりしないこともあり)、1~2ヶ月してから頭痛や嘔吐、片麻痺、呂律が回らないなどの症状がみられます。これは脳を包む外側の硬膜と脳との間に血(血腫)が溜まり、血腫が次第に脳を圧迫することで、これらの症状を引き起こします。キーワードは頭部を打撲して1~2ヶ月後にみられる頭痛です。

六、 その他、緑内障の頭痛(側頭部の激しい痛み)も失明のおそれがあるため要注意です。皆さん、初めて経験する頭痛にはくれぐれも気をつけて下さい。

いきいき生活通信 2015年 6月号

腸内フローラについて

最近の研究によると、私たちの消化管には約1000種類、100兆個の細菌が存在しているらしく、このようなことから腸内細菌を1つの臓器として例える考え方が広まってきているようです。
そして腸内細菌の新たな機能が次々と明らかになってきており、今、医学の世界では皆さんが思っている以上に腸内細菌が注目されています。
ヒトは母体内では無菌状態ですが、出生するとまもなく腸管内での細菌の増殖が起こり、さまざまな環境因子(母親からの伝播や食事、抗生剤など)によって幼少期頃までに個人特有の細菌集団が形成されます。

このように腸管内では多種多様な細菌が種類ごとに集まって腸内の壁面にびっしりと自分達の領域を形成しているのですが、その様子はいろんな花が種類ごとに並んで咲いているお花畑に似ていることから、腸内フローラ(フローラ=お花畑)と呼ばれており、その腸内フローラは各個人によって違いがあります。
腸内細菌をおおまかに分類すると乳酸菌などの善玉菌、ウェルシェ菌などの悪玉菌、どちらにも属さない日和見菌に分類されますが、これらの菌の比率が個人によって違っているわけです。

善玉菌は体に有益な物質を作り、悪玉菌は有害な物質を作り出しますが、悪玉菌優位になると、この有害物質が過剰に吸収され、やがてがんや生活習慣病、うつ病、老化の促進などに繋がることが示唆されているのです。
この10年あまりの間に腸内フローラに関する研究は著しく進歩しており、これまでに肥満や糖尿病、がんを引き起こしやすい腸内菌などがみつかっており、加齢や食生活の乱れ(動物性の脂肪・たんぱく質の過剰摂取)、ストレス、抗生剤などの薬の服用によって善玉菌は減り、悪玉菌が増えてくる、すなわち腸内フローラの乱れが起こることがわかっています。

対策として、ヨーグルトや納豆などには善玉菌が含まれており、また野菜・果物・豆類には善玉菌の栄養源となるオリゴ糖や食物繊維が多く含まれていますので、これらを毎日適量摂取することが望ましいでしょう。
近い将来、もしかすると自分の腸内フローラが簡単に調べられ、必要な腸内フローラを大腸内視鏡を使って自分の大腸に移植(実際にある疾患では既に行われています!)したりする時代が来るかもしれませんね。

いきいき生活通信 2015年 5月号

高血圧あれこれ

さだまさしさんの名曲“風に立つライオン”が映画化されたので、早速見に行ってきました。
アフリカの大自然を前にして「本当に大切なものとは何なのか」を考えさせられる話で、曲の中の「現在(いま)を生きることに思い上がりたくない」のような歌詞を耳にすると「もっと自分も頑張らないといけないな」と思うのですが・・・
さて、今回は診察室で皆さんから質問される高血圧についてのあれこれをQ&A方式でまとめてみました。

Q:血圧測定の時間
A:朝と就寝前が理想で、朝は起床後1時間以内で排尿後かつ朝食および服薬前です。

Q:測定回数
A:1~3回が理想ですが、座位で1~2分間の安静後であれば1回で構いません。ただ、朝は忙しいと思いますので、私は患者さんには安静時間なしで、連続2回測定を指示しています。2回目の測定の頃には座位後1分は経過しているでしょうから、私はこの2回目の測定値を参考にしています。ただし、指針では全てを記録するようになっています。

Q:白衣高血圧と仮面高血圧
A:白衣高血圧とは診察室では高血圧であっても、診察室外では正常血圧を示す場合で、将来的に高血圧を来たすリスクはありますが、比較的安心できる状態で、治療の対象にはなりません。一方、仮面高血圧は白衣高血圧とは逆で、診察室では正常血圧で、診察室外で高血圧の場合です。こちらは立派な高血圧で、治療の対象になります。

Q:血圧の日内変動
A:通常、血圧は朝が一番高いのですが、この傾向が著しい場合は脳卒中や心筋梗塞のリスクが高いと言われています。一方、夜間は低くなることが多いのですが、低くならない、あるいは逆に高くなる場合は脳卒中のリスクがあるとされています。また職場などのストレスのため昼間に血圧が高くなる日中高血圧については脳卒中との関連は?です。

Q:拡張期高血圧
A:いわゆる“下の血圧”が高い場合です。下の血圧が目立って高い場合は肥満や運動不足、喫煙、飲酒などにより末梢の血管抵抗が増している為で、この場合はまずは生活習慣の見直しをして下さい。

Q:脈圧について
A:脈圧とは“上の血圧と下の血圧との差”です。50mmHg以下が望ましいのですが、80mmHg以上の場合、太い血管の動脈硬化が進んでいると考えられています。年齢が大きな要因となりますので、高齢の方ではある程度は仕方がありません。

以上、高血圧に関する話でした。皆さん、まずは血圧を測定して、自分の血圧がどのくらいなのかを把握して下さい。

いきいき生活通信 2015年 4月号

溶連菌感染症について

最近、溶連菌感染症の患者さんを治療する機会が何度かあったので、ちょっと調べてみた事をお話したいと思います。

溶連菌とは正式には溶血連鎖球菌と呼ばれている細菌です。
“血が溶ける病気?”いえいえそうではありません。溶連菌は培地上でヒツジの赤血球を溶血することからそのように呼ばれており、ヒトの体内で血が溶けるわけではありません。
溶連菌は主に“のど”に感染して咽頭炎や扁桃炎、そして猩紅熱(体や手足に小さく紅い発疹がみられる)などを引き起こしますが、抗生剤がよく効くため、比較的速やかに症状も軽減します。のど中心の感染症ですので、咳や鼻水はほとんどなく、特にのどの所見は特徴的で、慣れた先生であればのどを診ただけで診断できることもあるぐらいです。

“意外と単純な病気?”ほとんどのケースはそう言えるかと思いますが、時に続発性の合併症がみられることがあるので要注意です。続発性の合併症とは主にリウマチ熱と腎炎で、どちらも咽頭炎などを発症してから1~3週間後にみられます。
リウマチ熱とはリウマチのようにあちらこちらの関節が痛くなったり、心臓の弁に炎症が起こったりして後遺症を残すことがある恐い病気です。腎炎は浮腫みや全身倦怠感などの症状がみられ、放置すると一時的に透析をしなくてはならないこともありますので、安静にして塩分や水分、食事の制限などが必要となります。ただ、ほとんどのケースはそれで回復しますので、心配ありません。

いずれも過剰な免疫反応やアレルギー反応が原因と考えられていますが、特にリウマチ熱については抗生剤を十分な期間(10日間)服用することで、発症を予防することが可能となっており、最近では稀な疾患となっています。診断はのどを綿棒でこすることで、そこに溶連菌がいるかどうかを数分で判定します。
この検査が陽性であれば、溶連菌がいることはほぼ確実なのですが、実は小児の5人に1人は溶連菌を保菌していると言われています。溶連菌も住むところに困っているのでしょうね。
単に保菌している場合は感染性もなく、治療の必要もありません。治療が必要なのは溶連菌が悪さをしている場合です。また兄弟間の感染も比較的多くみられますので、用心して下さい。ちなみに潜伏期間は2~5日です。

最後に大人についてですが、小児ほどではないにしても溶連菌に感染することはありますので、のどがすごく痛くて食事も摂りにくい場合は、念のため病院で診てもらって下さい。

いきいき生活通信 2015年 3月号

ジェネリック医薬品について

最近診察室で、患者さんから「ジェネリックに変えて欲しい」とか「こんな葉書が届いたのだけれど、どうしたらよいのか」といった事をよく聞きます。葉書は健康保険からで、内容はジェネリック医薬品に変えるとどのくらい自己負担額が安くなるかという内容です。皆さんの中にも少なからずこのような葉書を受け取った方がおられるでしょう。

ジェネリック医薬品とは特許が切れた薬を他社が真似て作った薬のことです。
一般に新薬を開発するのに10年以上の歳月を要し、3百億円以上の費用がかかると言われていますが、販売されてから10年程で特許が切れると、他社はその薬と同じ有効成分を持つ薬(添加物は違っていたりします)を3~5年で、しかも1億円程度で作ることができます。
ですから当然、薬の価格も安く抑えられ、ジェネリックは先発品の約2~6割程度の価格に設定されています。有効性や安全性に違いがなく、更に価格が安いとあれば、もっと早くジェネリックが普及しても良いはずだったのですが。

国は皆さんの自己負担額の軽減および医療費の削減を目的として10年程前からジェネリック医薬品の普及に努めており、平成30年までにジェネリックの数量シェアを60%以上にするという目標を掲げています。当初は、ジェネリックに対する医師や薬剤師さん、患者さんの信頼度が低く、平成23年の時点で22.8%のシェア(米国などの先進国は50%以上)だったのですが、何と平成25年には46.9%まで上昇しています。この傾向が続けば、国の目標も達成されそうですよ。

普及が急速に拡がっている理由は
(1)宣伝などでジェネリックの認知度が拡がったこと。
(2)実際に使用してみて有効性に違いがないことを医師や患者さんが実感していること。
(3)更に薬によっては先発品に工夫を凝らすことで苦味をなくしたりして飲みやすくなっていたりすること。
(4)そして何といっても大きな要因は、薬剤師さんが積極的に使用していることでしょう。
医師がジェネリックへの変更を不可としていなければ、薬剤師さんと患者さんで自由にジェネリックへ変更できるからです。

現在、非常に沢山のジェネリック医薬品が販売されており、しかも1種類の薬に何十ものジェネリックがあることもあります。正直、薬の細かいことまでは私にはわかりませんので、薬剤師さんに全てお任せというのが実情です。私はただ、ジェネリックの普及が少しでも医療費の削減に繋がり、結果的に国民皆保険制度の存続に貢献できるればいいなと思っています。

いきいき生活通信 2015年 2月号

2014-2015年度 インフルエンザについて

“War is over, if you want it(きみが望めば、争いは終わる)”
これはジョン・レノン(元ビートルズのメンバー)が作曲した“ハッピークリスマス”という曲の中の1フレーズです。いつの日かジョン・レノンが望んだように、世界中から争いがなくなってほしいですね。
皆さん、今年もどうぞよろしくお願い致します。

さて、クリニックでは昨年11月中旬からインフルエンザの患者さんがみられるようになり、週毎に患者さんの数が増えて、12月はちょっと大変な状況でした。ワクチンを接種して数日後にインフルエンザに罹ったりした子供さんもおられ、希望日にワクチンを接種してあげられなくて申し訳なく思っています。
例年、1月から流行の兆しがみられ、2月初め頃がピークで、春先まで散発的に続くのですが、今シーズンはどういうわけか随分早くから流行しています。理由はよくわかりませんが、気温や湿度がウイルスに有利であったのかもしれませんし、ウイルスの変異が予測よりも大きいのかもしれません。

まだ皆さんも覚えているかと思いますが、5年前、新型インフルエンザが大流行しましたね。それまで小さな変異を繰り返していたインフルエンザウイルスが大きく変異したため、季節外れの時期に大流行したのです。その新型インフルエンザと呼ばれていたウイルスも今では、他の季節性インフルエンザウイルスと同じような流行状況となったため、新型とは呼ばれておらず、季節性インフルエンザ(H1N12009)として扱われています。

さて、昨年11月から流行しているインフルエンザはA香港型と呼ばれているタイプで皆さんにもお馴染みだと思いますが、A香港型も実は昭和43年に新型インフルエンザとして世界中で大流行を引き起こしています。その後、小さな変異を繰り返しながら、今日に至っているわけです。

インフルエンザと言えば、高熱・寒気・関節痛といった症状が特徴ですが、今シーズンのインフルエンザについてはこれらの典型的な症状の患者さんは半数程度で、微熱や普通の風邪症状と何ら変わらない方も多く、実際にインフルエンザと診断されて驚いている患者さんも少なくありません。しかし、重症化や異常行動なども時には起こりますし、A香港型以外にもB型や先程述べたH1N12009タイプも流行すると予測されていますので、あまり軽く考えないほうが良いでしょう。
最後に予防についてですが、やはりマスク・手洗いが重要だと思います。そして風邪と思ったら、咳エチケットをお忘れなく。

いきいき生活通信 2015年 1月号