神明クリニック

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コラム(2022年)

12月号非結核性抗酸菌症について
11月号持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)について
10月号2022-2023年度インフルエンザワクチンについて
9月号分子標的薬について
8月号リフィル処方箋について
7月号膵管内乳頭状粘液性腫瘍(IPMN)について
6月号睡眠薬について
5月号子宮頸がんワクチンについて
4月号高齢者の慢性心不全について
3月号片頭痛について
2月号肥満症について
1月号原発性アルドステロン症について

非結核性抗酸菌症について

師走の候、今年は皆さんにとってどんな一年になりましたか。私はとにかくロシアによるウクライナ侵攻が衝撃的で…。世界はこんなにも不安定な状態だったのですね。気づいていなかっただけで、これまでもずっとそうだったのかもしれませんが、今ははっきりとその不安定さを感じます。来年もその先も「正義」が永遠に正義であり続けるように願っています。

さて、今回は結核菌と似たような菌による感染症のお話です。結核はかつて「亡国病」と呼ばれた恐ろしい病気でしたが、その後ワクチン(BCG接種)や治療薬のおかげで罹患率や死亡率は著明に減少しました。しかし、まだまだ欧米諸国と比べると十分とは言えず、油断できない疾患であることには変わりありません。

結核菌はその染色性の特徴[抗酸菌染色(主にチール・ネルソン染色)という特殊な染色を行ったときに、一般的な細菌は青色に染まりますが、抗酸菌は赤く染まります]から抗酸菌に分類されています。抗酸菌には結核菌以外にも150種類以上の菌があり、それらの菌(ライ菌は除く)による感染症が非結核性抗酸菌症です。結核が減少しているのとは対照的に増加傾向にあり、ついに結核の罹患率を超えるようになりました。当院でも最近時々経験します。そしてこの非結核性抗酸菌症の約88%が2種類の菌(Mycobacterium avium complex;MAC)によることから、この場合は「肺マック症」とも呼ばれています。

ではこの疾患の特徴を挙げてみると①水や土壌など自然界に広く生息している②菌を含んだ水滴やほこりなどを吸入することで感染する③ゆっくりと進行することが多く、自然に軽快することもある④健診などで偶然みつかることも多く、なぜか中年女性で感染者が増えている⑤無症状や軽症の方は経過観察される⑥治療はまだ確立されていないが、複数の抗結核薬などを年単位で服用し、薬が効きにくい場合は外科的治療(肺切除)も考慮される⑦ヒトからヒトへの感染はみられず、隔離の必要はないなどです。結核と似ている菌ですが、その性質は随分と違いますね。

結核と比べると穏やかで、病気の進行もゆっくりなのですが、その代わりに治療が効きにくく、時には命に関わることもあるのが厄介な点です。実際に、年間の死亡者数は結核よりも多くなっており、今後も増加が予想されています。咳や痰、血痰などの症状がみられ、画像的にも進行傾向であれば、積極的に治療を受けてください。

最後に来年が人類にとって良い年でありますように。

いきいき生活通信 2022年 12月号

持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)について

先月、久しぶりに明石公園で「明石薪能」を鑑賞しました。確かに心に響く「何か」を感じたのですが、それが何であるか自分なり具体化できないので、次回はもう少し勉強して行ってみたいと思います。

さて、今回は比較的新しい疾患であるPPPDについてです。PPPDは2018年に国際的に分類された慢性のめまい症で、以前から原因不明のめまい症とされてきたその多く、あるいは一部がPPPDであるとされています。特徴は3か月以上持続する浮遊感、不安定感、非回転性めまいが特徴で、すなわちぐるぐる目が回るタイプのめまいではなく、ふわふわと雲の上を歩いているようなタイプのめまいです。耳鼻科での一般的なめまいの検査では異常がなく、診断はその特徴的な症状から判断されます。

具体的には①上記のめまいが3か月以上、ほぼ毎日みられる②立位や体動あるいは複雑な物を見たり、動いているものを見たときなどに増悪する③急性のめまい発作などに引き続いてみられることが多い④めまいを非常に苦痛に感じている⑤他に説明できる疾患や病態がない、これらの条件を全て満たすことが診断には必須です。またPPPD専用の問診票があり、診断に活用されています。

原因についてははっきりと分かっていませんが、先行する急性のめまいに対して、めまいが起こらないような姿勢を保つように視覚的あるいは体性感覚的に対応をすることで、逆に過敏な状態をもたらすこととなり、些細な視覚刺激や体動によってめまいが誘発される機序が考えられています。要するにめまいに対する過剰反応がPPPDの原因かもしれないということです。

治療は通常のめまいの治療は効果がなく、抗うつ薬による薬物療法や前庭リハビリテーションおよび認知行動療法が有用とされています。前庭リハビリテーションとはめまいを誘発することで、めまいに慣れていくような治療法ですが、確立されたプロトコルがあるわけではありません。また認知行動療法は主に精神科領域で行われている治療法ですが、例えばPPPDの場合では、まずその病態をよく理解し、めまい日誌などを作ってめまいの誘因を認識し、そしてめまいに対する不安を自覚することで、思考的にも精神的にもめまいとポジティブに向き合っていくような治療法で、専門的な知識や経験が必要とされます。

3か月以上続く浮遊性のめまいはPPPDの可能性がありますので、ちょっと覚えておいてください。

いきいき生活通信 2022年 11月号

2022-2023年度インフルエンザワクチンについて

WHO(世界保健機関)が先月半ばに「新型コロナの収束が近づいていて、終わりは目の前だ」との認識を示しました。新型コロナが流行し始めてから実に2年半以上、ようやくその終焉が現実的になってきているかもしれないと私も日々の診療の中で実感しています。当初より発熱外来をしていたので、何度も何度も流行の波が繰り返されるとスタッフの誰もが「いったい、いつまで続くのだろうか」と不安に思った時期もありましたが、皆で励まし合いながら何とかここまで来ました。とにかく今は最後まできっちりとやり遂げる思いです。

さて、新型コロナの恐怖は随分と和らいできましたが、取って代わるかのように心配されているのがインフルエンザです。なぜなら今年の5月ごろから、日本と季節が真逆であるオーストラリアで2年ぶりにインフルエンザが流行したからです。

新型コロナの流行前までは毎年オーストラリアで先に流行したインフルエンザが日本でも流行する傾向にありましたので、日本でも2年ぶりにインフルエンザが流行する可能性は高いでしょう。しかもこの2年間で私達のインフルエンザに対する集団免疫は非常に低下していると思われるので、罹患するとかなりしんどいかもしれません。そうであれば、これまでの感染予防に加えて、やはりワクチン接種が例年以上に重要になります。

今年度のインフルエンザワクチンは過去5年間で最大量の供給が見込まれていますので、ワクチン不足を心配する必要はなさそうです。また、例年通り4価のワクチンでA型2種類とB型2種類が含まれていて、昨年度のワクチンからそれぞれ1種類ずつが別のウイルス株に変更されています。

13歳以上の方は原則1回接種で、13未満の小児は2回接種(2~4週間隔)となります。ただし、WHOの見解によると「9歳以上は1回接種が適切である」としていますので、1回接種でも問題ないと思います。

効果については実際に流行する株とワクチンに含まれている株の一致率は年度によって違いますので、年次差はありますが、発病を予防する効果だけでなく重症化や死亡を防ぐ効果もある程度はみられていますので、インフルエンザ合併症のリスクがある高齢者(65歳以上)や基礎疾患のある方、5歳未満の小児は特に接種が推奨されています。
例年本格的な流行は年明けですので、できれば年内に接種を済ませましょう。

いきいき生活通信 2022年 10月号

分子標的薬について

最近の私のお気に入りの番組は、NHKのニュースウォッチ9の後に時々放送されている「映像の世紀バタフライエフェクト」という番組です。何となく見ていると、結局最後まで見てしまっている感じなのですが、これまで知らなかったことがちょっと残念なくらいです。「映像の世紀」シリーズもいつか全部見てみたいと思っています。

さて、今回は今の医療の中心を担ってきている治療薬で、今後もますます発展していくであろう「分子標的薬」についてです。これまでがんに対する薬物療法は抗がん剤を使った化学療法が中心でしたが、抗がん剤はがん細胞だけに作用するのではなく、増殖の盛んな細胞(血液細胞や毛母細胞、消化管の粘膜細胞など)に同じように作用しますので、骨髄抑制や脱毛、嘔吐、下痢などの副作用もひどくみられることがあります。化学療法はまさに副作用との闘いでもあり、大量の抗がん剤を使用すればより強力にがん細胞をやっつけることができるのですが、副作用との兼ね合いで使用できる量が制限されてしまいます。「がん細胞だけを特異的にやっつけることができれば」そんな思いが以前から治療する側にはずっとありました。

がんの研究はまさに日進月歩で、がん細胞の増殖に関わる遺伝子やタンパクが次々に明らかになってくると、今度はその分子の働きを抑え込む薬が続々と開発されるようになり、この20年あまりの間に非常に多くの分子標的薬が使用されるようになりました。似たような名前の薬が多くて、覚えきれないくらいです。手術や生検などによって採取した患者さんのがん細胞を用いて特定の遺伝子変異やタンパクの異常発現の有無を調べることで、前もって分子標的薬の効果をある程度予測することもできます。

分子標的薬は単剤で使用されることもあれば、抗がん剤と併用されることもあり、また初発時に使用されることもあれば、再発時に使用されることもあります。対象となるがんの種類も増えてきています。ただし、ある分子の異常を抑えるだけでそのがんを完全にやっつけられるほどがんの仕組みは単純ではなく、一方副作用も皮膚障害や胃腸症状、時には重篤な薬剤性の肺炎などがみられたりすることもあります。すなわち、まだまだ発展途上ではあるのですが、がんの種類や患者さんによっては非常に高い効果がみられていることも確かで、近い将来「夢のような薬」が臨床の場に登場しているかもしれません。

いきいき生活通信 2022年 9月号

リフィル処方箋について

ウクライナ情勢は長引きそうですが、私たちも辛抱するしかないですね。
さて、今回は「リフィル処方箋」についてのお話です。医療機関は患者さんに診療行為などを行った際、公的医療保険(国保や社保など)からその診療に対して報酬が支払われます。その報酬(診療報酬)は2年ごとに改定され、この春から新たな診療報酬となりました。国の財政事情や医療が絶えず変化していることを考えると、診療報酬の改定は必要なことなのですが、医療機関にとっては厳しい内容に改定されることも多く、今回の改定のトピックの一つが「リフィル処方箋」です。

リフィル処方箋とは繰り返し使える処方箋のことで、慢性疾患の処方(眠剤や湿布などは除く)に対して、具体的には例えば1か月分の処方を行った場合、リフィル処方箋であれば3回までを限度に病院を受診しなくても、薬局で薬剤師さんの指導・管理の下で薬がもらえることになります。このケースだと病院を受診するのは3か月に1回で、薬局には月に1回通うことになります。薬剤師さんの役割は非常に大きくなると思いますし、これまで以上に患者さんとの関わりが強くなるでしょう。

安定している患者さんの中には実際に薬をもらうためだけに受診されている方もおられますし、通院や窓口での負担を感じている患者さんも少なくないと感じています。そのような患者さんにとっては、ありがたい制度でしょうね。海外では以前から多くの国で導入されていて、国にとっても医療費の削減につながります。薬剤師さんは負担が増えて大変だと思いますが、その分やりがいもあるでしょう。

では医師はどうかというと、特に患者さんの身近な存在であるべき開業医にとっては、多くの医院が収入減になることや患者さんの状態変化が分かりにくくなることなどのデメリットの方が大きいと思われます。私自身は少なくとも月に1回は診た方が良いと考えている患者さんもおられますので、そのような患者さんに「セルフメディケーション」として患者さん任せになってしまうことは心配です。実際に患者さんが「大丈夫」と思っていても、診察してみたらそうではないことも時々経験します。

安定している患者さんでも原則3か月に1回は受診してほしいと思いますし、一方患者さんの病気や状態、生活状況などは千差万別なので、医療側も臨機応変に通常処方、リフィル処方、長期処方などを使い分けていくべきだと思っています。

いきいき生活通信 2022年 8月号

膵管内乳頭状粘液性腫瘍(IPMN)について

膵臓の腫瘍と言えば、まずは「膵臓がん」だと思いますが、実は膵臓にはそれ以外にも「のう胞性腫瘍」と呼ばれる腫瘍がよくみられます。のう胞性腫瘍とは内部に液体がたまった袋状の腫瘍で、膵臓にはそんな腫瘍が何種類もありまして、その中で最も多いのが膵管内乳頭状粘液性腫瘍(IPMN)です。この日本語病名は何度覚えても忘れてしまうので、私はIPMN(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm)で覚えています。

実際に検診などでのエコーやCT検査で偶然見つかることも少なくありません。IPMNが良性腫瘍であれば何の問題もないのですが、悪性化することもあるので厄介です。悪性化するとやがて「通常の膵臓がん」と違いがなくなります。

膵臓の役割には食べ物を消化するために膵液を作って十二指腸に送り出す働きがありますが、その際に膵液が通る管が膵管であり、本幹である主膵管と主膵管に合流する分枝とに分かれています。IPMNは主膵管に発生する「主膵管型」と分枝に発生する「分枝型」、両方が併存する「混合型」の三つのタイプがあり、肉眼的には乳頭(ポリープ)状に発育して、粘液を豊富に産生します。多量の粘液や腫瘍そのものの発育によって膵管が拡張し、また粘液が膵管にたまって袋状(のう胞)になります。したがって画像では膵管の拡張やのう胞が見られることが診断のきっかけとなり、特に分枝型ではいくつもの隣り合う分枝膵管が拡張して「ぶどうの房」のようにみえることも特徴的です。

腫瘍そのものはゆっくりと発育するため画像ではわからないこともあるのですが、膵管が拡張したり、のう胞が大きくなっていく場合は腫瘍も増大していると考えられ、悪性化のサインとなります。特に主膵管型は悪性化しやすく、腫瘍がはっきりしなくても主膵管の拡張が進む場合やある程度拡張している場合は手術も考慮されます。逆に分枝型は良性のことが多く、腫瘍が明らかでない場合やのう胞が増大傾向になければ経過観察となります。ただし分枝型の場合、通常の膵臓がんが若干できやすい傾向にあるため、やはり定期的に経過をみていく必要があります。

IPMNは決して稀な疾患ではなく、また通常の膵臓がんに至る前に診断・治療ができる「治癒可能な膵臓がん」ですので、必ず経過をみていくようにしてください。

いよいよ夏本番ですね。熱中症にはくれぐれも気をつけてください。

いきいき生活通信 2022年 7月号

睡眠薬について

プロ野球 阪神タイガースが勝てば気持ちよく眠れるんですけど、今年は不眠気味ですね。
不眠を自覚している人は非常に多く、加齢とともに増加していて、実際に睡眠薬を服用している方も少なくありません。患者さんからは「癖にならないか」とか「認知症にならないか」などの質問があります。使い方によっては癖にもなるし、認知症のリスクも高くなるかもしれません。

睡眠薬と認知症の関係性については、いくつかの大規模な研究があるのですが、肯定的なものもあれば否定的なものもあり、結論はでていません。ただし、不眠症による睡眠不足が認知症のリスクを高めるという報告もありますので、不眠症で困っている方には適切な睡眠薬を過剰にならないように使用することが重要です。

主に使われている睡眠薬を分類すると①ベンゾジアゼピン系②非ベンゾジアゼピン系③メラトニン受容体作動薬④オレキシン受容体拮抗薬に分かれます。①と②は脳の機能を低下させ、やや強引な眠気をもたらす薬で、③と④は自然な眠気を強める薬です。

以前は睡眠薬といえばもっぱら①の薬が中心で、このタイプの薬はGAVA(ギャバ)という神経伝達物質の働きを強めることで催眠作用をもたらしますが、それ以外にも抗不安作用と筋弛緩作用があるため、倦怠感やふらつきなどの副作用がみられる傾向にあります。そこで①の薬からこれらの作用を除いたのが②の薬で、催眠作用はそれなりに強くて、副作用が軽減されているため、高齢者を中心に非常によく使用されています。

一方、③④は①②に比べて催眠作用は弱いのですが、その代わりに副作用も少なく安全性が高いタイプになります。③の薬は体内時計によって夜間に分泌量が増え、催眠作用もあるメラトニンというホルモンの分泌を促す作用があります。効果は弱く、海外では薬局で購入できたりします。④の薬は覚醒の維持に関わっているオレキシンという神経ペプチドの作用を阻害することで覚醒状態から睡眠状態(レム睡眠:夢を見ている状態)へ導きます。睡眠作用も適当で、安全性も高いことから最近使われることが多く、私もよく処方しています。

また、睡眠薬は作用時間の違いによって超短時間型、短時間型、中間型、長時間型に分かれていて、寝つきの悪いタイプか中途覚醒するタイプかによって使い分けます。不眠症の方は不眠の程度もさまざまですが、薬の強さも違いがありますので、より適切な睡眠薬を選択していきたいと思います。

いきいき生活通信 2022年 6月号

子宮頸がんワクチンについて

世界はこの先どうなっていくのでしょうかね。毎日が何となく憂うつで、その時々のニュースに心が微妙に揺れ動かされるのを感じています。「戦争は絶対にしてはいけない」と教わり、実際に戦争とは無縁のまま育ってきたので、こんなに戦争を身近に感じたことは初めてです。こんな時だからこそ「冷静にならないといけない」と常に自分に言い聞かせています。

さて、今回は子宮頸がんワクチンについてです。2011年に子宮頸がんワクチンの公費助成が始まると、当時当院でも非常にたくさんの方に接種しました。供給が追いつかなくて、予約をキャンセルしていただいたこともありました。そして2013年4月には定期接種となったのですが、その2か月後には報告されている副反応(慢性の痛みや運動機能障害などの多様な症状)とワクチンとの因果関係が否定できないため、厚労省より積極的に接種を勧奨しないことになりました。この決定により以後定期接種として接種する人は極端に少なくなり、当院でも年に1人いるかどうかでした。

しかし、その後いろいろな調査がなされ、報告されてきた問題となるような多様な症状はワクチン接種によって明らかに増加するとは言えないと判断され(1万回に1回以下)、この4月から子宮頸がんワクチンの積極的勧奨が再開されることとなりました。また、接種機会を逃した方についてもその機会が設けられることとなっています。

子宮頸がんは95%以上がヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって起こります。主な感染経路は性的接触であるため、多くの方がHPVに感染しますが、そのうちの一部の女性が子宮頸がんを発症します。統計では毎年約1万人が罹患し、3千人が亡くなっていて、30~40代の女性に多いことも特徴です。そしてHPVにもいろいろな型があり、16型と18型で子宮頸がんの約60%を占めています。

肝心のワクチンについてですが、HPV感染を防ぐことができるものは現在3種類(2価、4価、9価)あるのですが、公費で接種できるのはそのうちの2価(HPV-16・18型)と4価(HPV-6・11・16・18型)のワクチンです。予防効果はワクチン接種が進んでいるスウェーデンのデータになりますが、4価のワクチンで接種時期が16歳以下では88%、17~30歳で53%の減少効果が報告されています。また、9価のワクチンについては予防効果も高いと考えられていて、現在定期接種の対象ワクチンとして検討中のようです。子宮頸がんは予防可能な疾患ですので、予防接種をお忘れなく。

いきいき生活通信 2022年 5月号

高齢者の慢性心不全について

外来に通院されている高齢の患者さんで、息切れやむくみを訴える方は少なくありません。血液検査をすると、たいていBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)という値が高くなっています。BNPは心不全のマーカーで、利尿、血管拡張、交感神経の抑制、心肥大の抑制などの作用があり、心臓に負担がかかっているとその状態を改善すべく、心臓(心室)からたくさん分泌されるようになります。すなわち、BNPが高ければ高いほど、心不全が進行している可能性があるわけです。

高齢者の心不全をおおまかに分けると、心臓の収縮力が弱くなるタイプ(収縮不全)と心臓の拡張力が弱くなるタイプ(拡張不全)に分かれます。収縮力が弱くなると全身に血液(酸素)を十分に送れなくなり、またそのために血液の流れも滞ることになります。拡張力が弱くなっても血液を十分に心臓にためることができなくなるので、結局は収縮不全と同じような状態になります。酸素不足は息切れや倦怠感を、血液のうっ滞はむくみなどの症状をもたらします。高齢者の慢性心不全は拡張不全によるものが多いことも特徴的です。そして、心不全の原因は狭心症・心筋梗塞や高血圧、弁膜症などであり、加齢による動脈硬化が強く影響しています。

治療はまずこれらの心不全の原因となった疾患の治療が優先されますが、慢性的に機能が低下した心不全に対しては主に①心臓の収縮を強くする②心臓の働きを抑え、心臓を長持ちさせる③心臓の負担を和らげる治療などがあります。特に収縮不全タイプの心不全には多くの研究結果があり、①の治療よりも②の治療の方が長期的には効果があることがはっきりしています。βブロッカーやARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)などの薬にこの作用があり、皆さんも非常によく服用している薬です。

③の代表的な薬は利尿剤です。余分な水分を排せつすることで、血液量が減少し心臓の負担が軽減されます。また比較的最近の薬で、BNPなどのナトリウム利尿ペプチドの働きを増強する薬も非常に有効であり、今後使用がますます増えていくと思われます。
一方、拡張不全タイプの心不全には有効な治療があまりなかったのですが、尿中への糖やナトリウムの排せつを促進する糖尿病薬がこの心不全に効果があることがわかってきて、こちらの薬も最近よく使われています。

「加齢のため」と思っている息切れや浮腫みは心不全が原因のこともあるので、注意してください。最後に理由は何であれ、“No more war”です!

いきいき生活通信 2022年 4月号

片頭痛について

北京オリンピック、いろんなドラマがあって面白かったですね。特に女子スピードスケートの高木美帆さんの活躍が凄くて、表情も印象的で、強い人だなと思いました。4年後も頑張って欲しいです。

さて、今回は最近新薬が相次いで発売されている片頭痛についてのお話です。突然、視覚の中にギザギザとした光が現れて四方に拡がり(前兆)、その後に片方のこめかみから目のあたりにズキンズキンとした拍動性の頭痛が数時間続くのが典型的な片頭痛です。前兆を伴わないことや、両側性に痛みがみられること、また長い場合は数日続くこともあります。吐き気や嘔吐を伴うことも多く、頭を動かしたり、光や音などで痛みが悪化することも特徴です。日常生活に支障を来たし、患者さんも多いことから、私達にとっても重要な疾患です。

その病態について、いくつかの仮説を説明すると、①血管説:脳血管が収縮することで前兆が起こり、その後収縮を維持できなくなった血管が拡張に転じることにより神経が刺激されて激しい痛みが起こるという説で、脳血管の収縮・拡張には神経伝達物質であるセロトニンが関係していると考えられています。②神経説:神経細胞の過剰な興奮・抑制によって痛みが起こるとする説。③三叉神経血管説:“何らかの刺激”によって三叉神経の末端で神経が刺激されると、いくつかの神経伝達物質(CGRPなど)が放出され、その作用で血管の拡張や炎症性変化が起こることで痛みが生じ、また同時に神経の興奮は脳幹から脳へと伝わることでその他の随伴症状(悪心・嘔吐や光・音・匂いなどの過敏症状)が出現するという説で、血管説と神経説をくっつけたような感じなのですが、何らかの刺激が何であるのか、前兆の有無は何が関係しているのかなど、よく分かっていないことも多々あります。

しかし、どうやらセロトニンやCGRPなどの神経伝達物質が関係していることは確からしくて、片頭痛治療の中心であるトリプタン系薬はセロトニンの受容体に作用し頭痛を抑制します。近々発売される新薬もセロトニン作動薬ですが、トリプタン系薬とは結合する受容体が違うようです。またCGRPの作用を阻害する薬(注射薬)が昨年発売され、片頭痛発作の発症抑制に対して効果を発揮しています。

最近の片頭痛治療の進歩は目を見張るものがありますが、患者さんは費用や効果の面でまだまだ満足していないと思われるので、今後更なる片頭痛治療のブレイクスルーに期待しています。

いきいき生活通信 2022年 3月号

肥満症について

今から7年半前、その頃の私の体重は84kg(BMI 26)で、おなか周りが大変なことになっていました。気がつけば、ある木曜日の外来診察後に市内のプールに駆け込んでいました。その時から水泳を始めたのですが、細々でも続けているおかげで、それからは77kg(BMI 23.7)以下に維持できています。

BMI(Body Mass Index)は肥満度を表す指数で、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算され、日本では25以上は肥満と定義されています。肥満であっても健康であれば問題ないのですが、肥満が原因で高血圧や糖尿病、脂肪肝など健康障害を合併しているか、合併症がなくても内臓脂肪型肥満(ウエスト周囲長:男性≧85cm、女性≧90cmで腹部CTによる内臓脂肪面積≧100㎠)の場合はいずれ合併症が予測されるので、「肥満症」という疾患に分類されます。治療が必要な病気ということになります。私も7年半前は肥満症でした。

おなかにたまった大量の脂肪細胞は脂肪をためているだけではなく、「アディポカイン」といわれるさまざまな生理活性物質を産生・分泌しています。その中には高血圧や糖尿病を発症しやすくしたりする物質(悪玉アディポカイン)やその逆の作用の物質(善玉アディポカイン)、あるいは満腹中枢を刺激する物質などが含まれています。善玉アディポカインは肥満によってその分泌が低下します。

また満腹中枢が刺激されると食欲が低下するのですが、それが続くとやがて反応しなくなります。すなわち肥満によって食欲は抑制されにくくなり、善玉アディポカインの分泌は低下し、悪玉アディポカインの分泌が亢進することで高血圧や糖尿病などの疾患がみられるようになり、最終的には合併症により生命に危険が及ぶようになるのです。

実際に海外の大規模な疫学調査によって、肥満が寿命を縮めることは明らかになっており、BMIが25以上では数値が5高くなるごとに、死亡リスクは有意に上昇することが分かっています。

治療の基本は食事療法と運動療法ですが、長続きしないことも少なくありません。その場合は毎日の食事や行動、体重などを記録することで、肥満の原因を分析し、何が問題なのかより明白に自覚することも重要です(行動療法)。また、重度の肥満症(BMI≧35)の方は減量手術も選択肢になります。現在、保険で認められている手術は胃をバナナの様に細くする「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」で、長期的な減量効果が期待できる治療法です。まずは自身のBMIをチェックしてみましょう。

いきいき生活通信 2022年 2月号

原発性アルドステロン症について

新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
昨年も結局、仕事もプライベートもコロナ禍の一年でした。この2年間どんよりとした天気がずっと続いているようで、できれば今年中にそのどんより雲を取っ払ってほしいですね。それが今年の願い事です。

さて皆さん、自分の血圧がどのくらいか把握していますか。私はときどき自院で測定していて、最近は130/80mmHgぐらいで少しずつ上がってきています。140/90mmHg以上は高血圧ですので、もう時間の問題でしょうね。高血圧を放置していると、脳卒中や心筋梗塞、心不全、腎不全などの重大な疾患につながりますので、高血圧の方は積極的に治療を受けて下さい。高血圧に気付いていない方や自覚していても治療を受けていない方、さらに治療を受けていてもコントロールが不十分な方が非常に多いといわれていて、私の外来でも血圧管理の重要性をもう少し認識してほしいと思うことがあります。

高血圧は多くの場合、遺伝的な要因や喫煙や肥満、ストレス、運動不足などが関連して発症する本態性高血圧ですが、何らかの疾患などによって起こる場合は二次性高血圧として分類されています。二次性高血圧の中で最も多いのが「原発性アルドステロン症」です。聞きなれない疾患だと思うのですが、なんと高血圧全体の5~10%程度を占めると考えられていて、高血圧の方が全国で約4300万人と推定されていますので、200万人以上いることになります。高血圧患者さんの中で診断されていない方が非常に多くいるということです。

原発性アルドステロン症は、腎臓のすぐ上にある副腎からアルドステロンが過剰に分泌される疾患で、アルドステロンは本来塩分を体内に保持し血圧を維持する働きがあるので、過剰になると高血圧になるわけです。過剰かどうかは血液検査で分りますので、高血圧の患者さんを初めて診療したときには、最初にアルドステロンを測定することが望ましいのですが、私の場合、高血圧の家族歴がなかったり、重症の高血圧や電解質異常(低カリウム血症)があるときに限り調べているのが実情です。

治療ですが、アルドステロンの過剰分泌が片側の副腎からの場合は、その副腎を摘出することで治癒も期待できますが、実際は両側性のことも多く、その場合はアルドステロン拮抗薬を中心とした薬物療法になります。

最後にひと言、高血圧は軽視してはいけない疾患であり、その原因の一つが原発性アルドステロン症であることを心に留めておいてください。

いきいき生活通信 2022年 1月号