神明クリニック

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コラム(2017年)

12月号国境なき医師団について
11月号今冬(2017~2018年)のインフルエンザについて
10月号さい帯血移植について
9月号脳梗塞の治療について
8月号神経調節性失神について
7月号ハチ刺傷について
6月号軽度認知障害(MCI)について
5月号大腸憩室炎について
4月号アルコールと遺伝子の関係について
3月号フレイルについて
2月号ピロリ菌と胃癌について
1月号咳喘息について

国境なき医師団について

年の瀬もすぐそこまで押し迫ってきましたね。街はクリスマス色に染まりつつ、年越しの準備や忘年会等に行き交う人々で慌ただしくなってきましたが、その一方で、最近明石駅を歩いていると国境なき医師団への寄付を募る人たちをよく見かけます。何となくそのコントラストに心落ち着かなくなるのですが、今回はちょっとその国境なき医師団についてお話してみます。

おそらく皆さんが想像している通りだと思いますが、まず国境なき医師団は1971年にフランスの医師らによって「医療の必要性は国境よりも重要である」という信念に基づいて設立された民間の非営利団体です。
そしてその理念は誠に素晴らしく、要約すると

  • ①種々の理由により医療を受けられない人々に対して、人種、宗教、信条、政治的ないかなる差別もせずに支援する。
  • ②「医の倫理と人道支援」の名の下に中立性と公平性を守って行動する。
  • ③いかなる政治勢力や経済的勢力、宗教的勢力に対して完全な自立を保持する。
  • ④その任務の危険を承知し、医師団が用意できる以外の見返りを求めない。

とあります。実際にその理念に違わぬ立派な活動をこれまでに行ってきていて、1999年にはその功績が称えられ、ノーベル平和賞を受賞しています。

具体的には湾岸戦争時のイラクやシリア、アフガニスタン、イエメンといった紛争地域、ハイチやネパールなどの大地震などが起こった地域、あるいはエボラ出血熱のような非常に致死率の高い疾患が流行している地域での過酷な医療活動が挙げられます。

また最近ではミャンマー西部からバングラディシュへ逃れた60万人以上のロヒンギャ難民への救助活動を行っていて、ロヒンギャ難民の多くが怪我をしていて、心に深い傷を負っているようです。60万人というと明石市の人口の倍以上ですね。まさに世界中どこへでも国境を越えて人命救助に行っていて、昨年は3万9000人以上の海外派遣スタッフ(日本からは107人)・現地スタッフが世界の約70の国や地域で活動したそうです。

そしてその活動は医療だけに止まらず、「こんなに危機的な状況の人たちがいる」ということを世界に発信するジャーナリズムの役割も担っています。どこかの組織に属していたり、関連があったりするとこのような活動は制限されますので、完全に自立した団体であることが重要であり、従って運営資金の9割以上が民間からの寄付でまかなわれているそうです。私?参加はとてもとても無理です。能力的にも体力的にも。ただ関心はあるので支援はしていきたいと思っております。

いきいき生活通信 2017年 12月号

今冬(2017~2018年)のインフルエンザについて

今年のプロ野球のペナントレースが終了しました。阪神タイガース惜しかったですね。
今年は最後まで楽しめたので良かったのですが、時々ふと思うんですね。野球を楽しめる日常って本当にありがたいなと。
これからも野球に限らず、普通にスポーツが楽しめる世の中であって欲しいなと願っております。

さて、秋も深まり朝晩は寒さを覚えるようになりましたが、いよいよインフルエンザが流行する時期となってきました。今年は9月初めに東京都でインフルエンザによる学級閉鎖がみられ、その後各地でインフルエンザの患者さんの報告があります。
ここ大久保でも10月初めに少しみられましたが、今は落ち着いているようです。本格的な流行は例年通り年明けでしょうかね。

今年流行が予想されているインフルエンザのタイプは、昨年と同様A型2種類とB型2種類の計4種類です。A型は元々抗原性の違いから144種類もあるのですが、最近は専らそのうちのA香港型と2009年に新型インフルエンザとして流行したタイプの2種類がみられています。
一方、B型はA型に比べて変異が起こりにくいので、A型144種類に対してB型は2種類しかありません。そして毎年2種類の内のどちらかが流行していたのですが、最近は2種類とも流行するようになっています。ですから今年度のワクチンはこの予想に基づいて、昨年と同様に計4種類の抗原が含まれています。

ただ、今年はワクチン製造過程で急きょ変更が行われたため、昨年の使用量と比べてワクチンの製造量は一割減で、また出荷も少し遅れているようです。ですから接種時期が遅くなる方もいるかと思いますが、厚労省の試算によれば一回接種(13歳以上は全員)にすれば最終的には不足しないとのことです。
ただし、ワクチンの効果は絶対ではありませんし、また昨年罹ったから今年は大丈夫ということもありません。特にA型は毎年小さな変異を繰り返していますので、2年続けて同じタイプに感染することもあります。その点、B型は一度罹るとしばらくは罹りにくいようです。

一般的なことですが、インフルエンザの潜伏期は1~3日で、飛沫感染(咳やくしゃみなど)および接触感染(ドアノブや電気スイッチなど)で感染します。
普段から手洗いうがいを心がけて、そして重症化しないためには何よりも免疫力が重要ですので、体調管理に気をつけて下さい。

いきいき生活通信 2017年 11月号

さい帯血移植について

もう随分前のことですが、母親に木箱に入ったへその緒をみせてもらったことがあります。
「なんじゃ、こりゃ」というのが正直な感想で、その時はたいして感動もしなかったのですが、実はそのへその緒に流れているさい帯血には非常に貴重な細胞が含まれているんですね。

それがわかったのが1980年代初め頃で、1988年にはそのさい帯血を使った世界で初めての“さい帯血移植”が行われました。その貴重な細胞は造血幹細胞と言って、移植された人(レシピエント)の体内で白血球や赤血球、血小板に分化してその後半永久的に血液細胞を作り出します。

そして、何といってもさい帯血移植の最大の利点は骨髄移植と違ってドナーの負担が無いことで、したがって提供されたさい帯血がレシピエントとある程度適合すればすぐにでも移植を行うことができるのです。骨髄移植ではこうもスムーズには行きません。バンクドナーにもいろいろと都合がありますし・・・一方、不利な点は得られるさい帯血の量が少ないため(40~100ml程度)、大人のレシピエントには造血幹細胞の数が不十分なことも少なくなく、適応症例がまだまだ限られていることです。

しかし、1992年に世界初のさい帯血バンクが設立され以降、現在日本では公的バンクが八つあり、年間1000件以上のさい帯血移植が行われていて、実は世界で最も多くの移植が行われているのが日本なのです。「白血病などの重い病気で苦しむ患者さんを何とかしたい」という移植医の情熱を感じます!そして、さい帯血には血液細胞だけでなく、骨や神経細胞などその他の組織へと分化しうる細胞の存在も示唆されており、またより質の良いIPS細胞を作れることもわかってきて、世界中で研究が進められています。ですから、「将来何かあったときのために生まれてきた我が子のさい帯血を保存しておきたい」と思う親の気持ちは自然なことかもしれません。

実際に私的なバンクが幾つも設立され、ビジネスとして成り立っているのですが、その民間のさい帯血バンクのひとつが倒産し、保存されていたさい帯血が幾つかのクリニックへ高額で横流しされ、そしてそれらのクリニックではそのさい帯血を「がん治療や美容目的」と称して他人である患者さんへ国に無届けで投与していたようです。効果が無いだけならまだしも、不衛生であるかもしれない他人の血液を移植するのはその安全性にも非常に問題があると思われます。さい帯血移植が今後更に発展していくためには国の十分な規制が必要だと思いました。

いきいき生活通信 2017年 10月号

脳梗塞の治療について

“ピンピンコロリ”が皆さんの理想だとすれば、脳梗塞は最も罹りたくない病気のひとつでしょう。後遺症を残して介護が必要になることが多く、寝たきりの原因の約30%が脳梗塞によるものです。

もう十数年以上前になりますが、私が病院勤めの頃には有効な治療法がなく、治療の目標は専らそれ以上ひどくならないようにすることで、即ちいったん脳動脈が詰まってしまうとどうしようもありませんでした。
しかし、2005年に「血栓溶解療法」が認められてからは、脳梗塞発症後4.5時間以内なら血栓を溶かす薬を点滴することで、血管が再開通して症状が改善する例が約1/3で認められるようになりました。

しかしこの治療法は症状が重症の患者さんでは効果が少なく、また副作用(出血)のため薬が使えないこともあり、そして何よりも4.5時間以内に病院で治療を受けられるケースが非常に少なく、特に地域格差が大きいこともあって、結局血栓溶解療法の実施率は脳梗塞全体の約5%程度となっていました。
ですから1/3に効果があっても、治療が奏効した患者さんの数は実際それほど多くありません。

しかし最近、血栓溶解療法でも上手くいかない場合や副作用のため薬が使えない場合、そして発症から4.5時間を経過している場合にカテーテルを用いた脳血管内治療(血栓回収療法)が行われるようになってきました。
この治療は発症から8時間以内であれば適応があり、先端がらせん状になったワイヤーで血栓をからめ取ったり、あるいは吸引ポンプを使って血栓を砕きながら回収したりすることで、いずれも高い再開通率を達成しています。また「血栓溶解療法単独」と「血栓溶解療法+血栓回収療法」を比較した試験もいくつか発表されており、血栓回収療法を行った方が回復は良好で、自立した生活が送れる割合が有意に高いという結果でした。

したがって現在、急性期脳梗塞患者さんに対する治療法は「血栓溶解療法+血栓回収療法」が標準的な治療法として確立されつつあるのですが、血栓回収療法は熟練した専門医でなければ行うことができないため、24時間体制でこの治療を施行できる病院が少ないというのが現状の問題としてあります。

これから専門医の数がどんどん増えて、器具なども更に改良され、そして脳梗塞の後遺症で苦しむ人がもっともっと少なくなることを期待しております。

いきいき生活通信 2017年 9月号

神経調節性失神について

あれは中学二年生の夏、部活の練習中に立ったまま監督の話を聞いていたときです。
今でもよく覚えているのですが、段々と冷や汗がでてきて、監督の声が遠のく感じになり、そして目の前が真っ暗になった次の瞬間、顔をグランドに打ちつけて倒れちゃいました。一瞬、もう野球が出来なくなるんじゃないかと思いましたが、帰るころにはすっかり元気になっていました。

この失神は典型的な血管迷走神経性失神と言われるもので、長時間の起立が原因です。すなわち、立位→下肢静脈に血液がうっ滞→心臓へ戻る血液が減少→心拍出量減少→血圧低下が起こります。このままではまずいので、通常はすぐに交感神経(脈拍↑血圧↑)の亢進と副交感神経(脈拍↓血圧↓)の抑制が生じ、血圧が正常に保たれるようになります。

しかし時には立位の継続により心臓へのこの血圧低下刺激が続くことで、逆に交感神経の抑制と副交感神経の亢進が生じることがあります。そうすると脈拍が減少して血圧が低下し、失神が起こります。迷走神経は心臓を支配している副交感系の神経であり、このように心臓への刺激によって迷走神経が亢進して起こる失神が血管迷走神経性失神です。朝礼のときにみられる失神のほとんどがこのタイプです。そして心臓以外への刺激によっても迷走神経は亢進することがあります。

例えば、排尿後(膀胱への刺激)や排便後(腸管への刺激)、あるいはひどく咳き込んだ際(気道への刺激)にも迷走神経が亢進し、失神することがあります。これらはある特定の状況または日常動作で誘発される失神で、状況失神と言われています。また頚動脈の刺激によっても迷走神経は亢進します。特に中高年の男性に多くみられ、ネクタイ締め、着替え、荷物の上げ下ろしなど頚部の圧迫や刺激で誘発されるめまいやふらつき、失神は頚動脈洞症候群と言って、加齢に伴う動脈硬化との関連が指摘されています。
これら血管迷走神経性失神、状況失神、頚動脈洞症候群はいずれも刺激される部位は異なりますが、最終的に迷走神経が亢進して起こる失神であり、神経調節性失神と呼ばれています。

私は中学2年生の夏以降は一度も失神したことはないのですが、実は失神しそうになったことは何度かありまして、満員電車の中で立ち続けていたときや排便の後などに意識が遠くなりそうな感覚を何度か経験しました。大事なことは前兆を感じたらすぐに座るか横になること、そして神経調節性失神は誰でも起こるということを自覚することです。

いきいき生活通信 2017年 8月号

ハチ刺傷について

「以前、ハチに刺されたことがあるのですが、大丈夫かどうか血液検査で調べられますか?」と先日患者さんから尋ねられました。
急場を凌ぐ知識がなく、「次回までに調べておきます」と宿題にして頂き、少し調べてみたので今回は“ハチ刺傷について”お話してみます。

「スズメバチに2回刺されるとアナフィラキシーショックで死ぬかもしれない」というのは皆さんも聞いたことがあるでしょう。アナフィラキシーショックというのは、皮膚症状(蕁麻疹)や粘膜症状(唇が腫れる)だけでなく、呼吸器症状(呼吸困難)や循環不全症状(血圧低下)もみられる恐ろしい全身性のアレルギーです。
薬や食べ物などが主な原因ですが、死亡原因で最も多いのがハチ刺傷によるアナフィラキシーなのです。毎年20~40人ほどが亡くなられていて、その大半がスズメバチとアシナガバチの刺傷によります。
7月には巣が出来ますので、7~10月は攻撃性が高く、被害が多いそうで、これからの季節は要注意です。

そしてハチ毒にはいろんな物質が含まれていて、特にハチの持つ酵素類が私たちの体に入ると、その酵素に対して私たちは特異的に反応する抗体(特異的IgE抗体)を作ります。その特異的IgE抗体が体の中にたくさんあると、再びハチに刺された時にハチ毒と強く反応することで、アナフィラキシー反応が起こります。
典型的な場合は刺傷後、数分~10分で症状が出現し、30分以内にショックに至り死亡することがあります。病院に搬送する時間もないくらいです。

またハチ刺傷歴がある方で、再度刺された場合にアナフィラキシーショックを呈する可能性は3~12%だそうで、結構確率が高いのです。私も子供の頃にアシナガバチに刺されたことがあるので少し心配ではあるのですが、ではアナフィラキシーを起こしやすい条件はというと

  • ① ハチ毒特異的IgE抗体が高値の場合
  • ② 初回刺傷時に広範囲にひどい腫れが続いた場合
  • ③ 短期間に繰り返し刺された場合
  • ④ 一度に多数のハチに刺された場合

などが挙げられます。
ただし、重症のアナフィラキシー反応の30%で特異的IgE抗体は陰性なので、ハチ刺傷によるアナフィラキシー反応を確実に予測することは難しいのですが、実際的には上記①②に該当する方やハチに刺される可能性が高い方は治療薬であるエピペンの携帯が推奨されますので、一度病院で相談してみて下さい。

そういえば昨年、自宅の隣の木にスズメバチの巣があったのだけど、大丈夫かな・・・

いきいき生活通信 2017年 7月号

軽度認知障害(MCI)について

近頃、毎日ワクワクして過ごしています。阪神タイガースがあまりにも調子が良いので、ついつい期待してしまいます。阪神が負けたときはできるだけ気にしないようにして、勝ったときは優勝でもしたかのように喜んでいる自分のことが少々滑稽に思うのですが、どうしようもないんです。
できれば秋ぐらいまで楽しませて欲しいなと願っています。

さて、今回は最近注目されている軽度認知障害(MCI)についてのお話です。
MCIとは正常と認知症のちょうど中間にあたる状態のことです。MCIの状態では同じことを何度も繰り返して言ったり、物忘れが目立ってきたりして、認知症と同じような症状がみられるのですが、認知症の検査をすると異常がなく、会話も普通にできて日常生活に支障がみられません。

正直、私にも当てはまりそうで怖いのですが、MCIが注目されているのは認知症に進行する可能性が高いためです。MCIを放置すると5年間で50%の人が認知症へと進行し、そして現在MCIの人は800万人を超えていると言われています。認知症は進行性の疾患で、良くなることは難しいので、MCIの状態で何とか手を打てれば良いのですが、まだ研究途上といったところです。

では、加齢による物忘れとMCIはどう違うのでしょうか。ここが重要ですね。
厳密に区別することは難しいのですが、おおまかな違いを挙げるとすれば「名前がでてこない」「考え事をしていて用事を忘れてしまった」「今朝歯磨きをしたか思い出せない」などは加齢による物忘れと考えられますが、MCIではこれらの物忘れが繰り返しみられるようになり、ヒントを与えても思い出せません。
また体験したエピソードを丸ごと忘れてしまうようになり、例えば食事のメニューだけでなく、食事に出かけたことも全て思い出せないとか、孫の結婚式に出席したことも忘れてしまうなど、そして物忘れが次第に悪化していき、周囲がその物忘れに対して違和感を感じるようになってきます。
こうなると正に認知症の予備軍で、何とかしないといけません。

確実な方法はないのですが、ただ、少々刺激がある生活のほうが良いでしょう。
だから私は生涯阪神タイガースを応援することにしています。

いきいき生活通信 2017年 6月号

大腸憩室炎について

中学生の頃、ある晴れた休日の午後に1人で見たアニメが忘れられなくて、どうしてもそのアニメの事が知りたくて、もう何年も前ですが、ネットで調べてその原作の本を購入しました。『ぽっぺん先生と帰らずの沼』という本で児童書なのですが、最近、のどかな世界に浸りたくて、毎日少しずつ読み返しています。
もう少し世の中が安定して欲しいですね。

さて、今回は外来でときどきみられる大腸憩室炎についてです。大腸ポリープは皆さんよく耳にしたことがあると思いますが、大腸憩室はあまり馴染みがないかもしれませんね。
憩室はポリープとは逆で“くぼみ”のようにへこんだ状態なのですが、どうしてそんなものが出来るのかと言うと、近年、食生活の欧米化に伴い、便秘が起こりやすくなっていて、そのために腸管の内圧が上昇し、腸管内の弱い部分が内から外へ押されてしまって袋状に飛び出してしまうからです。
また加齢によって腸管壁が弱くなることも原因のひとつで、年齢とともに増加し、70歳以上では50%以上に憩室がみられるとの報告もあるぐらいです。

ただ憩室があるだけでは特に問題ありません。そのくぼみに便が溜まると憩室内の圧が高まり、血行が悪くなったり、細菌が増殖しやすくなることで炎症が起こります。憩室の好発部位は上行結腸(右腹部)およびS状結腸(左下腹部)なので、初めはそのあたりが周期的に痛んだりするだけですが、進行すると持続的に強く痛みだし、熱がでたり、下血がみられたりします。
さらにひどくなると穿孔したりして腹膜炎に移行することもあります。右下腹部に起こる虫垂炎と病態も症状も非常によく似ている疾患です。

診断は症状からある程度推定できますが、CT検査が特に有効です。
治療は軽症であれば食事療法および抗生剤の服用で良くなりますが、症状が強い場合は入院して、数日間の絶食および点滴治療が必要です。また腹膜炎などに進行すれば当然、緊急手術になることもあります。

そして憩室炎を繰り返すことも少なくなく、何度も繰り返すとその部位で腸管が狭窄したり癒着したりして便通障害を引き起こしたり、また時にひどく出血して内視鏡による止血術が必要になることもあります。

ひどい憩室炎や憩室出血を来たさないためには、普段から繊維分の多い食事を心がけて便秘にならないように注意して下さい。

いきいき生活通信 2017年 5月号

アルコールと遺伝子の関係について

ここ数年、毎年この時期に明石公園でお花見をしているのですが、満開に咲き誇っている“ソメイヨシノ”は理屈抜きで本当に素晴らしいですね。
そしてその桜に囲まれての宴はこれまた素晴らしく、ついつい飲みすぎてしまうのですが、最近、飲みすぎると記憶を失くしてしまうことが多くて、更に二日酔いもひどくて、おまけにメタボを行ったり来たりで良いことなんか何もないのですが、それでも飲んでしまいます。そんなに強くないんですけどね。
若い頃はたくさん飲めるのが「豪快で男らしい」と思ったこともありましたが、今はそういう風には全く思ってなくて、なぜなら“飲める飲めない”は生まれたときから遺伝子によってほぼ決まっているからです。

アルコールが体内に入ると消化管で吸収されて脳へ運ばれ、脳細胞を麻痺させて酔った状態になります。これがちょっと気持ち良くて、幸せな気分になってしまうのですが、アルコールはやがて肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)によってアセトアルデヒドに分解されます。
そしてこのADHの酵素活性には個人差があって、活性が弱いとアルコールが長く残る、即ちほろ酔い気分が長く続くためついつい飲みすぎてしまう訳です。

一方、アセトアルデヒドは毒性があり頭痛や吐き気、発汗などの症状を引き起こします。これが急性アルコール中毒や二日酔いの原因になるのですが、アセトアルデヒドもやがてアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸に分解されます。
そしてこのALDHの酵素活性もADHと同様個人差があって、活性が弱いとアセトアルデヒドが長く残る、即ちお酒が弱いあるいは飲めないタイプという訳です。お酒を飲むのが好きで、しかし二日酔いになりやすい私はADHもALDHも活性が少し弱いのかなと勝手に思い込んでいるのですが、調子に乗って飲みすぎていることも事実なんですけどね。

また大酒家やアルコール依存症のリスクのある方はどうなっているのかと言いますと、遺伝子的にはADH活性が弱くてALDH活性が強いタイプ、即ちアルコールは体内に長く残りやすく、アセトアルデヒドはすぐに分解されてしまうタイプです。

さて、このアルコール代謝に関する遺伝子検査は既に商業ベースで販売されており、実は簡単に自分の遺伝子タイプを調べることができるようになっているのです。本音を言うと知りたいのですが、何でもかんでも分かってしまうのはちょっと怖いですね。

いきいき生活通信 2017年 4月号

フレイルについて

ジムに通い始めて3年半が過ぎました。一生懸命すると続かないので、やる気に任せて出来るだけ自然にやっていこうとしているのですが、こんな甘いことを言っていてはだめですね。とうとう2月はジムに数回しか行けませんでした。いやいや、行けないのではなく、行かなかったんですけどね。まぁ、2月は寒かったので、仕方がなかったということにしています。

さて2025年(あと8年)には75歳以上の後期高齢高齢者が2000万人を超えるそうです。およそ5人に1人は後期高齢者ということになります。元気な高齢者が増えているのはすごく実感しているのですが、それでも健康寿命は男性で約9年、女性で約13年実際の寿命よりも短く、即ち死を迎える前の約10年間は介護が必要な状態であるということです。そしてその原因として注目されているのが、今回お話する“フレイル(老衰)”です。

フレイルという言葉はまだ皆さんに馴染みがないかもしれませんね。フレイルとは「加齢によって様々な心身の機能低下がみられ、生活機能が障害されやすい状態」と解されています。すなわち①体重減少②疲れやすい③歩行速度の低下④握力の低下⑤活動性の低下など、これらの症状がみられてくるとフレイルと判断され、そしてフレイルの状態にあると、ちょっとしたことで更に心身の状態は悪くなりやすく、入院が必要になったり、寝たきりになったりしやすいということです。多くの方はこのフレイルを経て、要介護状態へ進むと考えられています。

皆さん、きっと病院等の外来で「もう高齢だから仕方ありません。その症状と上手く付き合って下さい」って言われたことがあるでしょう。私、外来でよく言っています。加齢によって身体機能が低下してくるのは実際仕方がないことだと思うのですが、実はこのフレイルにはちょっと違ったニュアンスが含まれています。先ほどから何度も“仕方がない”という言葉を使っていますが、病気の管理や食事、運動あるいは認知機能低下などに積極的に介入することにより、フレイルを予防できたり、またその状態から要介護状態にならずに、健康寿命を延ばすことができるという意味が含まれているのです。

ですから、これから迎える未曾有の超・超高齢者社会において私たち医療従事者や高齢者の家族の方がフレイルの概念をよく理解することは非常に重要だと思いました。そんな訳で今回はフレイルについてのお話でした。

いきいき生活通信 2017年 3月号

ピロリ菌と胃癌について

この冬、話題の映画を二本観ました。「君の名は」と「この世界の片隅に」でどちらもアニメ映画です。「君の名は」は映像に迫力があって、とにかく気持ち良かったです。そして「この世界の片隅に」は声優ののんちゃん(能年玲奈さん:兵庫県出身)が独特の雰囲気を作り出していて、こちらも良かったです。
さぁ、もう2月ですね。この月が終われば冬の寒さもそしてインフルエンザも一段落です。皆さん、ぼちぼち頑張っていきましょう。

さて、今回はピロリ菌と胃癌についてお話してみます。
明石市で胃癌リスク検診(ABCD検診)が行われるようになってから、外来でもよくピロリ菌と胃がんの関連について説明する機会があります。

ピロリ菌について簡単に説明すると、

① 感染原因はまだまだ不確かですが、免疫機能が十分に発達していない幼児期に感染することがほとんどで、口から感染することは間違いなく、親から子供への口移しや上下水道の不完備などが考えられています。

② ピロリ菌は一度感染すると大抵の場合、胃の中に棲みついて炎症を引き起こし、その結果、萎縮性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などを発症し、その一部が胃癌へと進行します。

③ 日本人の感染率は高くて、また年代によって差が大きく、60代以上の人では約60~70%で、40~50代の人は約70~80%、30代で50%前後、30代以下では約20~40%程度となっています。

では肝心の胃癌との関連についてですが、ある国内の研究によるとピロリ菌陰性のグループ(280人)と陽性のグループ(1246人)を10年間追跡調査したところ、陰性群では0%に対して陽性群では2.9%に胃癌が認められました。また、ABCD検診では萎縮性胃炎の程度などによってピロリ菌感染群をB、C、D群に分けていますが、各群における胃癌発生率はB群で1/1000人、C群で1/400人、D群で1/80人程度と考えられています。
一見少ないように思えるかもしれませんが、一生涯で計算するとピロリ菌感染者の10人に1人は胃癌発生の危険性があるということになります。

このようにピロリ菌と胃癌は密接な関係があると思われ、実際にピロリ菌を除菌すると約30%程度胃癌の発生を抑制できたという報告もあります。
そんな訳で、私もそろそろABCD検診を受けてみようと思っている次第です。

いきいき生活通信 2017年 2月号

咳喘息について

新年明けましておめでとうございます。
月日が経つのは本当に早いもので、このコラムも今回が120回目で、ちょうど丸10年になります。文才がないので、小細工なしにできるだけストレートに思っていることを書いてきただけなのですが、ときどき患者さんから「読みましたよ」と言われるとついつい調子に乗ってしまって、ここまで続けてこられたのかなと思います。
そんな訳ですが、これからも続けていく所存ですので、どうぞよろしくお願い致します。

さて、今回は外来で非常によくみられる咳喘息についてです。「咳が止まらない」と言って外来を受診される患者さんは結構多くて、原因はいろいろと考えられるのですが、中でも咳喘息と思われるケースが最近は特に増えているように思います。
咳喘息って一体どんな病気なのでしょうか?

簡単に説明しますと、気管支喘息の亜型と考えられていて、気道が非常に過敏になっているために乾いた咳が長く続き、夜間や早朝に悪化するといった特徴があります。
ただ私は正直、今でも十分理解できているとは言えず、従って自分の中でしっくりくることもなく、結局のところなんとなく治療をしているというのが実情であり、誠に頼りなくて申し訳ないのですが、それでも最近増えているなと実感しています。

気管支喘息なら「ヒューヒュー」や「ゼェーゼェー」という音が聞こえて、呼吸も苦しそうだったりしますので診断は比較的容易なのですが、咳喘息はそのような喘鳴や呼吸困難はみられません。ではどうして診断をするのかというと、咳喘息にも一応診断基準というものがあり、そのうちのひとつが“気管支拡張薬が有効である”という条件なので、私は専ら咳喘息かなと思ったら、気管支拡張薬を使うのです。そしてそれが効けば咳喘息なのだろうなということにしております。

この咳喘息はとにかく気道が過敏になっていて、風邪や運動、タバコの煙、雨天、花粉、黄砂などによって出現したり増悪したりします。当の本人は結構つらいようで、咳き込んで眠れないことがあるとだいたい翌日に受診されます。
治療は気管支拡張薬や吸入ステロイド薬が中心で、大多数のケースはそれで良くなるのですが、減量・中止にて増悪することもあり、治療が長期化する例もあります。また経過中に30~40%の方が気管支喘息に移行すると言われており、早期の吸入ステロイド使用がその進展を防ぐのに有効とされています。
咳が長く続いてお困りの方は咳喘息も疑ってみて下さい。

いきいき生活通信 2017年 1月号