神明クリニック

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コラム

神戸新聞・折込の、地域の広報にあります「とことん、おおくぼ Okubo.com」の「ドクター西原のいきいき生活通信」で掲載された内容です。ぜひ皆様の生活にお役立てください。

6月号 異種移植について
5月号 粒子線治療について
4月号 夜間頻尿のアルゴリズムについて
3月号 レビー小体型認知症について
2月号 急性胆のう炎について
1月号 少子高齢化社会における医療・介護問題について

異種移植について

 日本で臓器移植ネットワークに登録している患者さんは増加傾向で、2023年3/31の時点では約16000人(腎臓14155人、心臓895人)です。しかし実際に移植が行なわれるのは1年間でわずか約4%であり、腎臓に関しては移植までの平均待機期間が約15年です。
  日本では脳死移植の件数が米国や諸外国と比べると極端に少なく、例えば米国では年間約14000人が死後に臓器提供していますが、日本では100人前後です。その要因としては、脳死に対する考え方の違いや移植可能施設が限られていることがあります。ただし、2010年に改正臓器移植法が施行されてからは、本人の書面による意思表示がなくても、家族の同意があれば臓器提供ができるようになったため、少しずつ増えています。

 さて、日本では移植を待っている患者さんがたくさんいる状況なのですが、実は今年の3月に米国のマサチューセッツ総合病院で、世界で初めて脳死状態でない患者にブタの腎臓を移植する手術が行われました。患者さんは透析患者さんで、残念ながら術後2か月で亡くなりましたが、移植された腎臓は問題なかったようです。

 異種移植は1960年頃にはチンパンジーやヒヒ(ヒトと同じ霊長類)からの移植が行われていましたが、上手くいかず、また倫理的な問題もあって、ブタからの移植が検討されました。
 ブタが選択された理由は倫理的問題が小さいこと、臓器が大きいこと、飼育が容易であること、多胎であることなどです。ブタから移植をすると言っても、例えばブタの腎臓をそのままヒトに移植するのではなくて、ヒトの体内に移植しても大丈夫なように、ブタの腎臓を改変しなければなりません。すなわちブタの遺伝子を操作して、

①ヒトの体内で生着できるようにする
②ブタの持つウイルスや菌が感染しないようにする
③移植した臓器が生体に悪影響を与えないようにする
④遺伝子操作によって将来がんなどが発症しないようにする
⑤これらの特徴を完璧に備えたブタを安定につくりだすこと

などが必要な条件であり、またその他にも移植を受けた患者さんやその家族を含めた倫理面の問題も考えられます。

 克服すべき課題は多々ありますが、ともかく人類は異種移植における非常に大きな第一歩を踏み出しました。そして日本での異種移植を後押しするかのように、最近明治大学発のベンチャー企業が遺伝子操作した細胞から「遺伝子改変ブタ」を生み出すことに成功しています。いよいよ異種移植時代の到来でしょうか。

いきいき生活通信 2024年 6月号

粒子線治療について

 今回は粒子線治療についてです。
 そもそも粒子線とは何でしょうか。説明するのが難しいのですが、できるだけ簡単に説明してみますね。

 まず、皆さんが馴染みのある放射線は「高いエネルギーを持って空間を移動する光(電磁波)あるいは粒(粒子線)」と定義されています。
 すなわち放射線は電磁波と粒子線に分かれるわけですが、電磁波は波長を持った光の仲間で、質量や電荷(+や-)を持たず、波長の長さによって電波、マイクロ波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、γ線(波長の長い順)に分かれます。波長が短いほど高いエネルギーを持つので、これらの電磁波の中でX線とγ線は特に高エネルギー物質です。
 一方、粒子線は質量を持った粒子で、原子を構成する電子、陽子、中性子などであり、特にα線はヘリウム原子核(陽子が2個、中性子が2個)、β線は電子、陽子線は水素原子核(陽子が1個)、重粒子線はヘリウムより重い原子核のことです。

 これらの粒子線の中で、現在治療に利用されているのは陽子線と重粒子線です。
 X線を使った放射線治療では病変部だけにダメージを与えることはできなくて、X線が通過した領域には減衰しながらダメージが与えられることになります。したがって、病変部以外の正常組織もそれなりのダメージを受けることになるため、がんをやっつけるのに十分な放射線を照射できないことがあります。
 しかし、粒子線はX線と違って、ある領域のみ高いエネルギーを与え、そこで消滅するという性質があるため、病変部にピンポイントに近い形でダメージを与えることができます(ブラックピークと言います)。すなわち、粒子線治療は従来のX線による放射線治療と比較して治療効果が高く、副作用は軽い治療法と言えます。
 また粒子線として陽子線ではなくて炭素の原子核(陽子6個、中性子6個)である重粒子線を使用すると、細胞致死作用は3倍になると想定されており、これまでの放射線治療に抵抗性であったがんにも効く可能性があるとされています。

 2016年から一部のがんが保険適応になり、現在保険適応疾患は頭頚部がん、前立腺がん、すい臓がん、子宮頸がんなど10疾患ほどまで増えており、更に肺がんや食道がん、その他の転移疾患も高度先進医療の対象(公的医療保険の対象にするかどうかの評価段階)になっています。
 粒子線治療はがん診療において、今後非常に重要な役割を果たしていくと思われます。

いきいき生活通信 2024年 5月号

夜間頻尿のアルゴリズムについて

 ロシアがウクライナに侵攻してから2年、イスラエルとハマスの戦闘が始まってから半年が過ぎました。ロシアもイスラエルも過去に民族滅亡の危機があったことはある程度理解していますが、ウクライナやガザでの崩壊した建物や負傷した人たちの悲惨な映像を見るといたたまれなくなりますね。「自分自身がいかに無力であるのか」を感じずにはいられませんが、今日も明日も自分ができることを頑張ろうと思います。

 さて、今回は「夜間頻尿のアルゴリズム」についてです。

 アルゴリズムとは問題を解くための手順のことですが、医療では診断や治療の手順のことを意味します。日本排尿機能学会の「夜間頻尿診療ガイドライン」を参考にして、夜間頻尿の原因を調べる手順について簡単に説明してみます。

 夜間頻尿の定義は就寝中に排尿のために1回以上起きることです。1回であれば気になりませんが、3回以上は睡眠や生活への影響がでてくるようです。
 そして夜間頻尿の原因は⑴膀胱畜尿障害⑵多尿・夜間多尿⑶睡眠障害に大別されていて、これらが重複することも少なくありません。皆さんの夜間頻尿の原因を是非考えてみてください。
 まず、夜間の尿量(就寝後から起床後朝一番の尿量まで)がどれくらいかチェックしてみましょう。その尿量が一日の尿量の1/3以上であるか、あるいは夜間も普通の尿量であれば、夜間多尿の可能性が高いです。夜間多尿は夜間頻尿の原因として最も多く、この場合は

①水分過剰摂取
②塩分過剰摂取
③心不全などによる下肢の浮腫が夜間に改善するため
④薬剤性(カルシウム拮抗薬や利尿剤など)
⑤睡眠時無呼吸症候群における交感神経系の緊張
⑥加齢などによる抗利尿ホルモンの分泌障害などが考えられます。

 一方、夜間の尿量が少ない場合、昼間は問題なくて、夜間のみ頻尿であれば
⑦不眠症が疑われ、

昼間も頻尿で尿量が少なければ(目安は1回の排尿量が150~200mL以下)、
男性は⑧前立腺肥大症、
女性は⑨過活動性膀胱や⑩骨盤臓器脱

などが疑われます。
 これら以外にも夜間頻尿を来す疾患は多数あり、糖尿病や慢性腎臓病なども原因となります。

 最近は夜間頻尿を訴える患者さんが非常に多いと感じています。まずその原因を考えてみて、原因に応じた治療をすることが重要です。治療は主に生活指導や薬物療法ですが、改善がみられない場合は泌尿器科などの専門医療機関への受診が必要です。

 最後にちょっとつぶやきます。“Heal the world”

いきいき生活通信 2024年 4月号

レビー小体型認知症について

 今回はレビー小体型認知症についてのお話です。
 初めて聞く疾患かもしれませんが、認知症の約20%を占めていて、アルツハイマー型認知症についで多い疾患ですので、是非覚えておいてください。

 レビー小体というのはα-シヌクレインというタンパク質が神経細胞に異常に蓄積したもので、1913年に病理学者であるレビー医師によって発見されました。そして1976年には日本人医師である小坂先生が大脳皮質の神経細胞にレビー小体が蓄積する新しい認知症の症例を世界で初めて報告され、後にこの疾患がレビー小体型認知症と命名されました。
 また、パーキンソン病でもこのレビー小体が脳幹内の中脳にある神経細胞に蓄積していることが示されており、パーキンソン病の主因とされています。

 レビー小体が蓄積する原因はよくわかっていませんが、主に脳幹に蓄積するとパーキンソン病で、脳の広い範囲に蓄積するとレビー小体型認知症になります。
 中核症状は次の三つで、
①幻視:「人が立っている」とか「虫が這っている」といった内容だったり、部屋の模様などが別の物に見えたりします。
②パーキンソン症状:動作が鈍くなり、姿勢が変えられずに転倒したり、進行すると嚥下障害がみられ、誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。
③認知症の変動:認知機能障害において記憶障害はむしろ軽度で、物事の理解ができたり、できなかったりと症状の変動がみられます。その他の症状は
④レム睡眠行動異常:レム睡眠(浅い眠り)中に大声を出したり、手足や体を動かしたりして、自身がケガをしたり、隣で寝ている人がケガをしたりすることがあります。
⑤自律神経障害:起立性低血圧や失神、便秘などです。

 診断はこれらの特徴的な症状と画像検査(MRI検査やシンチグラフィー検査など)によってなされますが、症状や経過が多様で、他の疾患(アルツハイマー型認知症や薬剤の影響など)との鑑別が難しいこともあります。
 治療は残念ながら特効薬がないため、中核症状(幻覚、パーキンソン症状、認知症)に対する対処療法が中心となります。
 またリハビリや生活環境を整えることも重要ですが、在宅での介護では対応が難しいこともしばしばみられます。その場合は在宅にこだわらず、施設入所や入院も積極的に考慮すべきです。

 早いもので、あちらこちらで春の足音が聞こえてきましたね。
 もうすぐプロ野球も開幕です。阪神タイガースの連覇に期待しています。

いきいき生活通信 2024年 3月号

急性胆のう炎について

 昨年、世界の平均気温が観測史上最高だったそうで、もはや温暖化ではなくて沸騰化の時代とも言われています。地球の未来が心配ですね。
 これからは、私なりにもう少し興味を持って考えてみようと思っています。

 今回は日常診療でときどきみられる「急性胆のう炎」についてです。まれに命に関わることもある疾患です。

 胆のうは肝臓の下側にある袋状の臓器で、肝臓で作られた胆汁を一時的に溜めておいて、食べた物が十二指腸までやってくると、胆のうが収縮して胆汁を十二指腸へ排出し、主に脂肪の消化・吸収を助ける働きをしています。

 その胆のうにはよく石ができます。10人に1人は胆石を持っていると言われています。胆汁を胆のう管に送り出すときにその石が邪魔をすると、胆のうから胆汁が排出できず、胆のう内の圧が上がって痛みが起こります(胆石発作)。
 右上腹部の強い痛みが特徴的で、食後2時間ほど続くこともあります。石が移動すれば痛みは消失しますが、石が胆のう管に陥頓し出口を塞いだままになると、胆汁の流れが滞り、胆のうは腫大して胆のうの粘膜が損傷します。すると、体内では炎症を誘発する物質が分泌され、急性胆のう炎へと進行していきます。そして、腸管内の細菌が逆行性に胆のうに感染したり、胆のう壁が血流障害により壊死・穿孔して腹膜炎に至ることもありますので、要注意です。

 急性胆のう炎の症状ですが、何と言っても右上腹部の痛みです。
 原因のほとんどが胆石によるので当然ですが、違和感から激痛まで痛みの程度はさまざまです。その他、嘔吐、発熱(微熱から高熱まで)、黄疸などもよくみられる症状です。さらに重症の場合は血圧低下(ショック状態)や意識障害もみられることがあります。

 診断はこれらの症状に加えて、血液検査で白血球数やCRP値の上昇および超音波検査で胆のう炎の所見(胆のう腫大や胆のう壁の肥厚、胆石など)を認めることです。診断は難しくないのですが、高齢者の方は症状が分かりにくい場合もあります。

 治療は絶食、輸液、抗生剤、胆のうドレナージなどですが、軽症から中等症の場合は可能なら早期の胆のう摘出術が望ましいとされています。また、急性胆のう炎の再発率は30%で、がんを合併することもありますので、いずれにせよいずれは手術をした方が良いでしょう。

 胆石をお持ちの方は普段から脂肪分の多い食事を控えめにして、急性胆のう炎に気を付けてください。

いきいき生活通信 2024年 2月号

少子高齢化社会における医療・介護問題について

 明けましておめでとうございます。本年も神明クリニックをどうぞよろしくお願いいたします。

 今年は西暦2024年ですが、以前から「2025年問題」とか「2050年問題」というタイトルで、日本の将来における問題が提起されてきました。当コラムでも一度この問題を採り上げました(2018年1月)が、来年はいよいよその2025年です。
 第一次ベビーブーム(1947~1949年)に生まれた、いわゆる「団塊の世代」の方々が後期高齢者(75歳以上)になる時期で、およそ3人に1人が高齢者(65歳以上)で、5人に1人が後期高齢者になる未曾有の少子超高齢化社会に突入します。医療・介護制度はどうなっていくのでしょうか。

 問題点はいろいろありますが、主要な問題に絞ってみると
①医療・介護費用の増大:高齢者が増えると、当然医療と介護にかかる費用が増えます。これらの費用はその大部分が税金から支払われていますので、今のままでは一人ひとりの税負担が大きくなります。病院の窓口で支払う自己負担額を上げたり、診療報酬を下げたり、在宅医療を推進したりとあれこれ手は打っていますが、財政面の観点からみると「国民皆保険制度」および「介護保険制度」を維持できるのか非常に心配です。
②労働力人口の減少:高齢者が増える一方、若年層は減少傾向で、すなわち医療・介護サービスの需要が増える一方、若年層による労働力の供給は減少していくと予測されています。医療・介護従事者の不足が指摘されている中、高齢者の再雇用や外国人労働者の雇用、ロボットの活用なども少しずつ進んでいますが、医療・介護の質を維持できるのか心配です。

 現在の限られた財源および人材では、医療・介護制度は破綻しそうです。国もいろいろと対策は練っていますが、もっともっと抜本的な構造改革が必要かもしれません。

 私自身は周りから「もういい加減やめてくれ」と言われるまでは仕事を続けたいと思っています。元来、無趣味でなまけ癖があるので、何か仕事をしていないとダメになりそうです。
 労働力人口の減少は是非とも高齢者を上手く活用するシステムを構築することで解決してほしいです。少しでも働くことで社会との繋がりも実感でき、より健康的で生き生きとした生活が送れると思います。
 実際に65歳の方々はまだまだ元気だと思いませんか。ちょっと先走り過ぎかもしれませんが、高齢者と呼ぶのは70歳からでも良いのではないでしょうか。

いきいき生活通信 2024年 1月号